第2回ポエムセミナ−  関西詩人協会・陽の会

                朗読法の実技指導   講師   花邑 てんさん
                       と き   2000年6月25日(日)午後1時〜4時  
                       ところ  ド−ンセンタ−中会議室(4F)( 大阪府立女性総合センタ-)

司会  原 圭治氏(以下敬称略)今回は会員外から講師をお招きしました。よろしくお願いいたします。
講師   詩人の集まりと云うことで一風変わった詩人が居るのかと身が引き締まった。みなさん が詩人として、自作     の詩を自分流に朗読するのか、一般的に朗読をするのかを尋ねたい。
    私は他人の詩を一般人に読んであげるのを生業としている。皆さんは自作の詩を発表するについての 技術    を考えているか。又、近ごろ話題の「詩のボクシング」に参加する考えはあるか。
福中、原  具体的にはまだ無い。
講師  読むことの目的意識、伝達状況、感情表現、朗読者の個性などにより、受け取る者の意 味が違ってくる場     合がある。時には逆転することもある。音読の技術や発声を知ること で正しく伝えることが出来る。

    (テキスト) 詩人のための朗読講座    
    1 読むこと 読む目的 
講師  《基本》何が書かれているのか。中身 キ−ワ−ド 声 作者の感情 背景の情景を 朗読者は把握する必    要がある。(あの人が語るとこう聞こえる。) 声 言葉が聞こえる。何を云ってるのか解らないでは駄目。(黙っ      て立っているのも芸術だ)では解らない。
    自分は声をよく出すか? 自己紹介をしましょう。エンマ帳をつけます。「私は00で す」と1分位でお願いしま     す。
        −略−   ( 順次自己紹介をする。20 分くらいかかる。自分の名前であるのに、声が小さかったり正                 確に発音できなくて何度もなおされる)
    2 日本語の特徴を生かした語り方、読み方
講師  《基本》日本語は1字1音の言語である。
    例えば、マツモト トモコ 7音をひらがな7文字に置き換える。マ行 タ行 カ行から出来て いる。
    50音の発音は声帯と人間の持っている楽器を使って発声する。

口腔断面解剖図 

 
口の開閉だけで音は通過する →ア行(A I U E O)
  軟口蓋  →カ行(Ka Ki Ku Ke Ko)
  硬口蓋 舌を叩きつける→タ行(Ta Ti Tu Te To)  舌を巻く→ラ行(Ra Ri Ru Re Ro)        
  唇の開閉 →マ行(Ma Mi Mu Me Mo) バ行(Ba Bi Bu Be Bo)  パ行(Pa Pi Pu Pe Po)
  歯に舌を当てる →サ行(Sa Si Su Se So)  ザ行(Za Zi Zu Ze Zo)
  鼻腔に空気が抜ける音  →ナ行(Na Ni Nu Ne No)
  喉の通過音→ハ行(Ha Hi Hu He Ho)                        
  2音がくっつく→ ヤ行(IA II IU IE IO)  ワ行(UA UI UU UE UO )
  喉にストレエウをかけて膨らます→ガ行(Ga Gi Gu Ge Go)
   ザ行(Za Zi Zu Ze Zo)ダ行(Da DI Du De Do)
  鼻濁音  →ガ行(ガギグゲゴ)関西では鼻濁音は余り使わないようですが、共通語で読むときは是非必要。
 


 

 3  声と音作り  丹田 鼻腔口 横隔膜などの体の楽器を使い間とテンポで   
              自分のメロデイ−ラインを作る。舌の体操をする。

      各自順次発音練習をする  −略−

                        −20分休憩−

原圭治 後半を始めます。作品がたくさん出ていますが、時間の都合でジャンケンできめたいと思います。
 
    作品朗読指導を希望する8人の中から4人が選ばれた。
    まず萩原朔太郎「猫」を実作練習をする。





 















 




 









 

















































































講師  韻、声をだして耳で確認する。相手にどう聞こえているか。まず何より聞こえる大きな声で。
    行間 段落  にはそれぞれ必要な間とテンポがある、特に長い詩の時は、その連を思い返す位の長さの間が必要です。
    プロミネンス(卓立)とは意識をして言葉を立てることだが、それも詩の場合考えても良い。
    
1 安森ソノ子作 ミラボ−橋  (詩誌「地球」「叢生」「柵」所属)
                   体の堅さ 礼 移動など二度三度の指導。 

2 森井克子作  現象     
                礼がいい。前半は云いたいことがよく分かった。後半は気持
                ちを集中させるように。段落では間を。長い連重い連は特に
                間を。何度も口に出してみる。

3 南村長治作  日課   (詩誌「深海魚」所属) 
                前半はいいが、後半息が続かない。(作者)入れ歯の調子が
                悪いので。私はザ−っと早く読みたい。(講師)作品の内容
                からイ−ジ−ダイラ−風より日課のように感じたい。最後は
                思いがこもった。  

4 佐古祐二作  若鮎の跳ねる時  (詩誌「PO」「詩人会議」所属)
                椅子に座る。三連で立つ。(講師)演出が出来ている。
                転調の時もっと大きな声で。深く座らないほうがいい。  
                低い声はいいが小さい声はだめ。連の間は123と数えるく
                らいに。最後きちんと皆を見る。
講師   1時から4時まできっちり終わりました。                  
原圭治  最後の挨拶。


 関西詩人協会 ポエムセミナ−2 参加者名(順不同敬称略)
 講師 花邑てん
 福中都生子  原 圭治  南村長治  下野純子  森井克子  浅田恵子  神田さよ 斎藤幸子  上田千晶  志田静枝  溝口由利子  片渕久子  阿形蓉子  伴 隆志 柴田忠彦  蔭山辰子  辻下和美  永井ますみ  もりたひらく  松尾照子 坂本 遊 佐古祐二  森安雄生  升岡弥生  山田 満世  石井 習  吉川美智子  永田節子 司 茜   安森ソノ子 猪谷美知子  (会員26 会員外6 計32名)    赤字は会員外です   
                         記録・ 蔭山辰子(陽の会) 構成・永井ますみ(リヴィエール)
   


  ミラボー橋   安森ソノ子    

その橋は
女の生き方を考えさせる橋
年月と風雨にさらされた錆びた鉄の
欄干に刻まれた緑の模様が
マリー・ロランサンを偲ばせる

ミラボー橋の上に立ち
みじろぎもせず迎える緑の色に
セーヌの川面を重ねる時
表れるのは
アポリネールが残した一篇の詩

ミラボー橋 その橋は
マリー・ローランサンが
若くて没したかつての恋人・炎の詩人を
見つめ
後ろ姿で立つ空間
男性ばかりの それまでの画壇
自己の意志で道を築き
時代の翻弄 自我の濁流から
立ち直っては 全力を注ぎ
72歳で他界するまでのその色彩を
女の深部からのオーロラを
発し続けるコンクリートの舞台

ミラボー橋の上に立ち
天上のアーチストたちと語る時
妖精のつきない想いのパステルカラーに
身は染まり
私のノートは
先人の気迫の嵐に吹き晒されて
次の新しい頁に
めくられていく

      冒頭へ戻る

    現象   森井克子   

駅の階段を上りきると
空はひび割れている
快晴の空は
青い布で くるまれているが
梱包を解くと
水脈が隠されている

街では 夜になると
光が逆転する
煌めいた光を呼吸して 人は身体ごと
空洞になっていく

竹林のふとい幹を 一本一本と
叩いていくと
空っぽの木霊が響き合う
雑踏で
人の身体を 叩いていくと
竹林のように 空っぽで
かさついた物質が
煙霧のように散らばっていき
空の割れ目へ
吸い込まれていく
水脈は密かに
空の向こうで
創られている

だがいままで
誰も 叩いてみたものは いない
水脈に 触れたものも いない

     冒頭へ戻る
   日課    南村長治  

オオムラサキの羽化はおそい
夢のしっぽに掴まって
ぐずぐず頭で
けさは五時起きだ
おきまりの身拵えに手間どる
窓をあける
つゆ空の鈍色(にびいろ)
目尻にたしかめながら
湯呑みに半分のどくだみ茶を飲む
それで眼がさめる
二日おくれの日記を書き
ひとまとめの新聞を切り抜く
朱で囲んだ記事を読み返してみる
なんで
「人類はもう子孫を残せない!?」ことに
わたしは関心をもったか
昨日はどうかしていたのだ
ようやくウズラの卵焼みたいな陽がのぼる
時計は見なくともわかっている
六時きっかりだ
湯沸し器のスイッチを押す
コーヒーは濃いめに淹れて
朝刊にはざっと眼を通すだけ
たんねんに読めば
腹立ちまぎれにまた何をしでかすか
すっかり忘れたいから
我流の軽い体操を十分間
朝食のあと六種類の薬をくちに放り込んで
家を出る
いつものくせだが
竹箒
レーキ
ポリ製の箕(み)とへらを持って
なにしろ自分の通る道だ
気持ちがいいからね
一区切りさっぱりしたところで
作業は終わる
ついでに横向きのバス標識を直す
(余計なことだ)
汗だくになって家にもどり道具を片づけ
裏の水栓で顔と首筋をふく
つめたいタオルは
二度の目覚めにいい
一息いれて
それから
散歩に出かける
            (1999.6.1)
   冒頭へ戻る

   若鮎の跳ねる時   佐古祐二   

薄暗い
廊下に忍び入る西日を
背に受けた
茶色の小瓶のような
俺の
精神の陽溜まり

車の
通り過ぎた後
舞う朽葉のように
ひととき陽気になるが
あとは
うずくまる路傍の静謐

だがしかし
時に匍匐し時に疾走する
あの
熱く滾るこころが
ふとした拍子に
呼び覚まされることがある

そう、例えば
春風の
たおやかに頬撫でてゆく月の夜
俺を視る貴女の目の中に
若鮎の跳ねて溯江する
今この時

嗚呼
不意をつかれた俺の目は
うろたえて泳いでいる
まるで
禁じられた悪戯を
美しい母に見つけられた少年のように

          冒頭へ戻る

inserted by FC2 system