薬師川虹一氏による海外の詩紹介です


  馬の運命 S.ハッダー


星空の下のハッラー河
土地と 草原と 森と
蒼ざめて墨色に滴る空とを
僕は捨てよう

それが僕のさだめなのだ
親方は取引で揉めている
僕の楽しい夢は夜明けに消え
故郷に帰れるかどうか

静かな月と 風と
金と翡翠をはめ込んだ鞍と
僕の心の相棒たちと
別れよう

取引はまだ揉めている
僕は故郷の帰れるのだろうか





もしもこの世が

若しもこの世が一切れの空を持っていれば
空は見慣れぬ腕を広げ
国籍を持たない人も抱え込むだろう
僕はそんな所へ鷲の様に飛んで行こう
死は遠く 高く
舞い上がることだと思って

その腕は僕に優しいだろう
僕はパスポートを探したり 判子を押してもらったりすることから免れる
僕の疲れた魂を片目で調べることなど不可能なのだ
僕はこの世の誠実な市民
僕の心の奥底の想いと気持ちと
僕の高貴な理想とを大地に伝えたいだけなのだ

若しもこの世に死が無くとも
僕は詩人の運命と
酒浸りの悲しみと
余りに早く失われた青春とを悲しむ

詩人の心は神秘の月
沖天の太陽
あなた方は生涯それを夢見るだろうが
届くことは出来ないのだ



S.ハダー:(S.Hadaa)1961年内モンゴルの良家に生まれる。幼少の頃より、モンゴルの民族文学に育てられ、現在、モンゴル作家協会会員。
1996年の第16回前橋世界詩人会議に出席。
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