「会員の詩」の頁です。
関西詩人協会自選詩集(第10集)から
掲載させていただきます。
正岡洋夫
老詩人
天満の駅から |
山川茂
一生 袋からつまんで取り出される 左耳右耳へと輪が掛けられる 指でプリーツを鼻から顎へ伸ばされる 玄関をくぐり外に出る 電車の中で 見知らぬ仲間と向かい合う 交わし合う言葉はないが お互いの呼吸を受け合う 仕事場では 夥しい会話 表側は 飛んでくるしぶきを浴び 裏側は あいそ笑いの吐息に満ち 両面から湿度が高まる 受けたしぶきを 吐息にまで運ばない 発した吐息を しぶきにまで届けない 昼食どき はずされてテーブルに置かれる 風と空気にさらされ ほんのりと乾いたとたん たちまち再び装着され 会話と呼吸のくりかえし 濡れては湿り 湿っては濡れる 玄関をくぐり家に帰る 左耳右耳と輪がはずされる 指で輪だけつままれ すぐさま ゴミ箱へ 抛られる 一日が終わる 一生が終わる |
所属:京都詩人会議、詩人会議
詩集:『手仕事』
吉田定一
朝の夢の中で おぼろげに 目覚めて飲む 朝の 一杯の レモンをいれて お砂糖のかわりに スプーン 一杯ぐらいの 想いでをいれて ゆっくり かきまわす レモンの もの哀しい味と あまい想いでが しずかにとけて コップのなかに なつかしげに 浮かぶ 恋し あなたの悲しみよ 恋し こころの中の水中花よ そしていつも さわやかに 今日のあなたと 朝の 一杯の |
所属:詩誌「伽羅」主宰、日本現代詩人会会員、日本詩人クラブ会員
詩集:『you are here』 『記憶の中のピアニシモ』『胸深くする時間』