「会員の詩」の頁です。

関西詩人協会自選詩集(第9集)から
掲載させていただきます。

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白川 淑



「花道」

       

    
花いかだが 流れてくる
はらはら はらはら 舞いながら寄ってくる
しぃんと 音もなく
浄土寺橋の東づめあたり
水面は ももいろの絨緞になっている

ほれ みとおみ きれえな花道え
いっしょに 歩いてみとうなってくるしぃ
そやけどぅ やっぱり後まわしにしとこ……
ひとりで さいなら するときまで

まっすぐ東へいくと 銀閣寺
見上げると 大文字山
ここ うちらのすいばやったのに
このごろ たんとの人がきはるなぁ

はなびらの散る 今じぶんにのこしとこ
ふわふわ ふわふわ 花の小径を歩きながら
耳をすますと お琴や尺八のすずしい音色
さくらさくらの唄も 聴こえてくるしぃ


                      

  

 


所属:日本現代詩人会 日本文藝家協会 日本音楽著作権協会
著書:詩集『祇園ばやし』『お火焚き』『花のえまい』随筆集『京のほそみち』





関 中子


「そんなわけで」

 

           
楽しみにかたちを贈ったら
仕事だった
これまでも楽しかったが
これからはもっと楽しめそうだ
もういちど楽しみにかたちをつくったら
詩が仕事になった
詩は
死と聞いた人をどきどきさせる
その人は
聞きかえすこともできないのさ
何気ない会話ならなおさら
死を聞き返す愛や勇気は
わたしは
いつか詩を死といいかえるよ
だからそんなに驚かないでよ
ありふれた世間のできごとに埋もれ
庭の畑の来歴からもひとつの消滅は見つかる
ことばにして披露すれば
今日成る思いの
……






 

 


所属:日本現代詩人会 日本詩人クラブ 横浜詩人会
著書:詩集『誰何』





森 清


「石に祈る」

 

 

           
石が並ぶ
沈黙の列

石の中の海
漂う木片
渚に打ち上げられた死者たち
祈り 祈る
土民の太鼓の音が近づく

夜への靜かな傾斜が始まる
消えてしまったものよ
いま そこは冷たいだろうか
甘い果実はあるだろうか
温かい飯はあるのか

インパール ガダルカナル レイテ
サイパン イオウトウ オキナワ

沈んだ地名に
堆積する汚泥
頭蓋骨の裏に生えた草は重いか

一握りの軽さ
生命よ
あまりにも軽い
石塊だ






                    



所属:詩誌「竜骨」








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