「会員の詩」の頁です。
関西詩人協会自選詩集(第9集)から
掲載させていただきます。
長岡紀子
「サウダウディ」
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所属:現代京都詩話会 国際詩人協会
著書:『四面舞踏会』(詩集) 『涙の二重奏』共著 『女・生きる』(エッセイ)
瀬野とし
「夢の中」
〈妖精〉 ということばが しのびこんだ ウトウトしている耳に ラジオから 〈若い娘は 夢の中に棲む妖精に 織り方を教えられて 自分だけの美しい模様の布を織る…〉 フィリピンのある民族の言い伝え、という 眼をつむったまま わたしは見る しなやかな妖精の姿と 赤黄白…とりどりの色の入り組んだ 見事な模様の布 そう ほんとうは だれの夢の中にも そんな妖精がいるのだろう 歴史の中の かけがえのない自分が 自分らしく生きられるように はげましてくれる妖精がいる 気づかされず 気づかないけれど 老いたわたしの夢の中にもいるのでは 妖精は年を取らないから 若いままで まだ織り上げられていない わたしの布よ 妖精に会いに わたしはウトウトと 夢の中へ入っていく
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所属:日本現代詩人会 詩人会議 炎樹
著書:詩集『なみだみち』『線』『菜の花畑』
福田ケイ
「おお ショパン」
ものみな静かに眠る夜に 私はひとりショパンを聴く フジ子・ヘミングが弾くピアノ 心にじっくり語りかけてくる 娘が大好きだったショパン 子犬のワルツ 革命 別れの曲 雨だれ ノクターン第二〇番…… 目を閉じると 娘と過ごした日々が あたたかい旋律となって 浮かび上がる 結婚式で花嫁となった娘が 白いグランドピアノに向かい ショパンの曲を奏でている 私の記憶の奥で一生消えることのない うれしい思い出である なのに 金沢の雪のやんだ朝 三十四歳で娘に死がおとずれた あの日 棺の上をショパンの 葬送曲が十曲流され 葬儀場を包んでいった 娘はばらの蕾のような唇に 微笑みをうかべていた ふれれば眠りから覚める気がした 一八四九年 三十九歳の若さで 燃えつきた ショパン 娘は天国でピアノの詩人に 会えたにちがいない
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所属:大阪樟蔭3人会 朗読文化の会「あい」