「会員の詩」の頁です。

関西詩人協会自選詩集(第7集)から
掲載させていただきます。

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高明浅太



「あんもくのりょうかい」

           

わかものはおれに
ことばをかけない
おれもわかものに
ことばをかけない
それがあんもくのりょうかい

わかものはおれを
みようとしない
おれもわかものを
みようとしない
それがあんもくのりょうかい

わかものはおれの
においをかがない
おれもわかものの
においをかがない
それがあんもくのりょうかい

わかものはじぶんの
せかいをかこっている
おれもじぶんの
せかいをかこっている
それがあんもくのりょうかい

あさのあいさつも
かえりのあいさつも
おれたちはとっくの
むかしにわすれてしまった
それがあんもくのりょうかいだ


                      

  

 

著書:詩集『学校はおせっかい』





水崎野里子



「光る風」

 

           
風が光る
遠い海から
長い旅路を携えて
辿り着いた白い岸辺

風が光る
木々をそよがせ
翡翠色した
川の水を追いかけて

風が光る
雪を残した
山々を吹き抜けながら
仰ぎ見る女たちの顔

風は光る
太郎と花子の
きっぱりと目覚めの朝
早起きの鳥たちの柔毛

風は光る
輝く昼
太郎の神社の杜を揺るがせ
花子の窓の花のカーテンを扇ぐ

風は光る
灯された蝋燭のものがたり
悲しい人魚の夢を
そっと吹き飛ばす

風・光る
風・光らない

風・光らない
風・光る

風がやって来た 遠い海から




 

 

所属:詩誌「PO」「パンドラ」「千年樹」
著書:詩集『あなたと夜』『愛のブランコ』ほか




美濃 吉昭



「冬の旅・ 蔵王」

 

 

           
ブナの林は
重い雪を振り落とす
褐色の箒が点を突き
梢の先には微かに冬芽がひそむ
根っこの周りの雪は解け
穴底に黒い雪が覗いている

根開きか 一面の眼窩

ゲレンデの布団雪は残照に浮かび
黒点が二つ降りてくる
最後のスキーヤー?
監視員だろう………たぶん

どこかで
なにかが息を潜め
じっと……こちらを見ている
かぞえきれない眼差し

の、沈黙

……あわてて
TVと部屋の灯りを消し
枕灯にきりかえる

窓ガラスの外は おだやかな雪明り
残雪は無言で
闇のなかに溶けてゆく
 
もう、
覗いては いないだろう
………たぶん


 

                    



所属:日本詩人クラブ 大阪詩人会議
著書:詩集『或る一年』『或る一年・II』







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