「会員の詩」の頁です。

関西詩人協会自選詩集(第7集)から
掲載させていただきます。

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熊井三郎



「伝説」



女1「わたしが身代わりになりますきに
   娘は助けてつかあさい」

男1 「兵隊の奥さんを出すわけにいかん
   ここは若い生娘に頼むしかないと決めたんじゃ」

女2「うちが二倍きばったらええんじゃ
   ほやけ妹はかんにんしてつかさい」

男2「地獄じゃあ
    みんなで死んだ方がましじゃあ」

女3 隣村の開拓団は年寄り女こども
   一人残らず青酸カリで自決したという

男1「なんとしても 生きのびて日本に帰ると
   みんなで誓ったでないか
   わしの娘もさしだすきに
   娘はきのう十六になったばっかりじゃ
   こらえてくれ こらえてくれ」

女3 十六歳からと決めたのは
   ほかならぬ団長だった
   重い悲しい沈黙が小屋を包んだ

男3 やがて
   よろっとひとりの娘が立ち上がった
   名指された娘らが
   次々と立ち上がった………

女3 かくして生まれた一つの伝説は
   故山の深い森の闇にのみこまれた

男3 只一つわかっているのは
   その村の生還率が
   七割にも達したということだけだ


                       

  

 

所属:「詩人会議」「軸」「100円詩集」
著書:詩集『誰か いますか』





佐相憲一



「セツブンソウ」

 

あなたの肌が太陽に弱いのは
 内なる太陽が輝いているから

あなたの眼が弱いのは
宇宙の視野に内なる緑が見えるから

あなたの膝が時々痛くなるのは
内なる運動がめぐっているから

あなたの足が規格外なのは
存在がオリジナルだから

あなたの肩と首がこりやすいのは
心が繊細だから

あなたの声が朗らかなのは
がんばって生きてきたから

あなたの笑顔がリアルなのは
夢が響いているから

豆まきは
鬼は外
でなく
いっぱいあったかなしみを
鬼として
ぼくらのうちに迎える

あなたの生まれた朝の雪
花ひらく
セツブンソウ
あなたの新しい時間が
また始まった


 

 

 

所属:日本詩人クラブ、日本現代詩人会、小熊秀雄協会
著書:詩集『もり』『森の波音』 小説『痛みの音階、癒しの色あい』




白川 淑



「花道」

 

 

花いかだが 流れてくる
はらはら はらはら 舞いながら寄ってくる
しぃんと 音もなく
浄土寺橋の東づめあたり
水面は  ももいろの絨緞になっている

ほれ みとおみ きれえな花道え
いっしょに 歩いてみとうなってくるしぃ
そやけどぅ やっぱり後 あと まわしにしとこ……
ひとりで さいなら するときまで

まっすぐ東へいくと 銀閣寺
見上げると 大文字山
ここ うちらのすいばやったのに
このごろ たんとの人がきはるなあ

はなびらの散る 今じぶんにのこしとこ
ふわふわ ふわふわ 花の小径を歩きながら
耳をすますと お琴や尺八のすずしい音色
 さくらさくらの唄も  聴こえてくるしぃ
 

                    



所属:日本現代詩人会、日本文藝家協会、日本音楽著作権協会
著書:詩集『祇園ばやし』『お火焚き』『花のえまい』
随筆集『京のほそみち』







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