「会員の詩」の頁です。

関西詩人協会自選詩集(第7集)から
掲載させていただきます。

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  後山光行



「空」

山の上によく行く

好きな珈琲屋がある

見えるのは竹藪と空だ

私はいつもホットレモンティーを注文する

コーヒーを最後に飲んだのは

二年前の二月二十二日(平成二十六年)

翌二十三日から紅茶にした

 

本場のコーヒーが飲んでみたくて

ブラジルもイタリアにも行ったのに

理由はちょっとした身体の不調

 

紅茶にレモンを入れて

いつもの空を見る

雨の日も

雲の多い日もあるが

今日は晴天

空が青い

イギリスへ行った時は

紅茶はお土産に買ってきたくらいだった

確かセイロン産の英国製だったか

 

空を見る為に

山の上の珈琲屋へ行く

空はいつも同じ

空はいつも違う

心にレモンティー以外のものが

どこからか満たされたことがある

竹藪ばかりの山のうえはいい



所属団体:日本未来派 日本詩人クラブ 粋青
詩集: 『海外出張』『蒔絵・花』ほか




藤井雅人



「くちなし」

 

くちなしの実に象られた 将棋盤の脚

助言無用の戒めを 盤が語る

もとより 対局者は無言の行

 

盤面にえぐられる

スパコンも掬いつくせない深淵

あらゆることばを呑み込んで

黒く光る水面

時おり波立ち 染められる

勝利の深紅 敗北の濃青に

 

固い陣を組んだ王将 金将 銀将

長駆のときをうかがう飛車 角行

跳ねとぶ桂馬 直進する香車

前線で矛を交わす歩兵――

駒を操っていたはずの棋客は

落ち込んでいく 駒の世界のなかに

かれらの叫び 軋み 打撃音が

綯い交ざり 変貌する

宇宙を織りなす 星雲の角遂へと

 

白いくちなしの花よ

盤面に降り注ぐがよい

数限りない 無言の星となるがよい

狭い盤の底にひらいた

遥かな時空を彩り 祝福するために

所属団体:日本現代詩人会 ERA 孔雀船
詩集:『ボルヘスのための点景集』『ことばよ 宇宙へ』『無限遠点』



森ちふく



「命は赤い血の叫び」

 

手足くくられ

のき下につらなる厄払い猿

一匹 二匹 三匹

赤布の作りものでもチリチリ痛くなる

 

テレビが伝える

ペルー国の人質かけひき

チリチリ茶の間で響き

胸もチリチリ

 

三叉路の矢じるしにそって

左にまがり 右にまがり

鈴なりの赤い猿

私の眼が赤色の海になる庚申堂

 

新婚風の二人が手を合わせる

チリチリと

変わってほしい この痛みを

一匹 一匹 祈りをこめ作られた

さる群団に

 

チリ チリ チリ チチチ

つたわる痛みがあって

新年の冷たい風にも

チリ チリ と

命は同じ赤い血の叫び




所属団体:日本ペンクラブ 樹音
詩集:
『花のうつわ』『命は赤い血の叫び』







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