「会員の詩」の頁です。

関西詩人協会自選詩集(第7集)から
掲載させていただきます。

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  香山雅代

「ばらり からり からり ばらりと」


青いひかりは

雨足を つれて

渚に やってくる

 

遥かな 沖から 打上げられる

穿たれた 楽器

滴る水を 払い

盲者の杖から 迸る

軒 打つ 琵琶の音に 似て

ばらり からり

  からり ばらり と

盤渉調に 一音高く

板庇を うつ

心音を 搏つ

 

妣の国の 渚では

せっせと 板屋に 茅を葺く

冬の 妖精の 滴る汗

からり ばらり

  ばらり からりと

黄鐘調へ 鎮まってゆく

 

青いひかりが*

雨音を つれて

渚に やってきて


      *ブルームーン 二度目の満月

所属団体:日本文藝家協会 日本ペンクラブ 日本現代詩人会 日本詩人クラブ 関西詩人協会 兵庫県現代詩協会 能楽学会
詩集: 『空薫』『粒子空間』


下前幸一

「八月の櫓」


二〇一三年夏

体温越えの

寄る辺ない空

 

あるいは白昼の井戸に

八月の櫓は立ちつくし

 

時も動かない公園に

ただ人影が燃えていた

 

河内音頭の

リハーサルの割れた響きが

地に張り付いている

 

たわんだ視界に

思いは薄く滲んでいる

 

足場のない

非正規の日々に

 

人影が燃える

 

整理解雇

籠城ストライキ

強制排除

 

燃え上がる炎に包まれて

人影が落ちていく

 

このひと時を抗いながら

立ちつくす八月の

高空の砦

 

ゆらめき

思いはたわんで

僕は今をためらっている


所属団体:関西詩人協会 PO
詩集:『『二〇一二年の仮歩道から』』


森 清

「鬼子母神の国」


ガラスケースの中

ケーキが並んでいる

甘くてしっとりしたケーキ

子供たちが背伸びして見ている

 

同じ町の中

三歳と一歳の兄妹が

鍵のかかった部屋で 見つかった

ドアにもたれるようにして死んでいた

ママの足音を待ちながら

夜が明け 日が暮れる

空っぽのスナック菓子の袋

乾いたペットボトル

ママは帰ってこない

ママ ママ ママは!!

 

近くの小公園に

屯する若者たち

ヴォリュームを上げたミュージック

騒音が町を包む

 

天災でもないのに

戦争でもないのに

人間が簡単に死ぬ

殺される

 

鬼子母神が跳梁して

子供を食べる

 

ケーキの味を知らぬ子供

親に抱かれぬまま命を絶つ子供

鬼子母神が薄ら笑いをしている大国

幼な子の いのち も守れぬ大国


所属団体:関西詩人協会 「竜骨」「セコイア」







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