「会員の詩」の頁です。

関西詩人協会自選詩集(第7集)から
掲載させていただきます。

過去掲載分はこちら

今回のテーマは「花・地球」です。




司 茜

「チューリップ」


凍てつく

瓦礫の中

 

杖をついたおじいさんが

テレビのインタビユーに応じていた

 

  女房も家も津波にさらわれてしまいました

  いっしょに軒先に吊るしたチユーリツプの球根500個

  春になって ここら いちめんに

  パッと咲いたら嬉しいなあ

 

願いは叶ったのだろうか

尋ねるよすがの

ないまま

束日本大震災から4年

 

沖をみつめ

 

いっぼんの赤いチユーリップに

頬ずりしている

おじいさん

高台に

ひとり

 

きらら

所属団体 関西詩人協会 日本現代詩人会 日本詩人クラブ 日本ペンクラブ   
所属詩誌 『山脈』『風鐸』発行人 
著書 「若狭に想う」「番傘をくるくる」「塩っ辛街道」


水野ひかる

「毛糸を巻く」


ふたりで向き合つて

今夜も毛糸を巻いている

子供の両腕にかけた毛糸が

赤い火星や黄色い木星になつて

部屋に転がっている

わたしが巻きとった銀河系宇宙

 

息を合わせて

毛糸を巻きとる

みぎ ひだり 右 左 ミギ ヒダリ

お互いの顔より

繁がるいっぼんの糸の先を見ていると

みどりの糸が 豆の蔓になつている

どこまで巻いても

ジャックと豆の木のように

天には辿りつけない

蔓の先に終わりはなく

果てしなくつづく海辺の道のようである

 

みどりの糸を巻きとると地球になるはずだが

カーブを曲がると

またくねくねと道がつづいている

 

向き合っていたのに

背中から蔓のようなものが巻きついてくる

ぐるぐる ぐるぐる

目が回つて

いつのまにかわたしが毛糸玉になり

地球になっている

夢の水平線で

所属団体 日本現代詩人会、日本詩人クラブ、日本歌人クラブ
所属詩誌 「日本未来派」「そばえ」
著書 『未明の寒い町で』『抱卵期』他多数


下田喜久美

「平和の星 (地球)」


ギガンジュウムが公園のべンチのそばで咲いている

希望で一杯の赤い群花

しかし戦争はいつまでもなくならない

花咲く野や山 こころの中はいつも平和だ

この平和がどうして 土地 食物 地の利や資源 主義の相違で

平和でなくなるのか

戦争といっただけでぼろぼろと涙を流す少女

世界のあちこちで家族を亡くし住む地を亡くし難民があふれている

 

しかし諦めてはならない

見せしめの残虐やリンチ暴力と悲惨を捨て去り

対話という 人間の持つ美徳で解決をなさねば

其れこそが平和の星

孤高と自己実現を目指す多くの命の 満ち足りた平安と充足

もう地球はどんなに辺部なところでも

開かれた光の届く星

知性と理想を知っている良心の在る国

差違と各地の伝統を重んじる国

字宙時代を見とうす叡知の人達

それを盲目とするのは権力の残虐性

誰にも人の命を傷つける権利などないのだ

 

諦めないで信じよう

明晰の海で恥と濁りを洗い流すまで

赤紫のギガンジュウムが平和の星の在り処を訴えている

五月の陽光の中にうたっては聞こえるその声


所属団体 関西詩人協会、日本国際詩人協会
所属詩誌 『このて』
著書 「スタートの朝」「下田喜久美詩選集」「果樹園」





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