「会員の詩」の頁です。

関西詩人協会自選詩集(第7集)から
掲載させていただきます。

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藤谷惠一郎

「死者と春」


死者の胸に

小鳥が

一粒の種子を落とす

 

芽吹き

子馬の誕生のように

花を咲かせる

生命の宙の

ひとつの確かなものとして

 

死者は

ようやく大地に帰る

所属団体  日本現代詩人会、日本詩人クラブ
所属詩誌  「PO」
著書   『風の船』『喪失の宙』『風を孕まず 風となり』




牧田久未

「消す男」


夜になると
男が消しゴムを持ってやってくる
毎晩やってきては消しゴムを置いていく
今では家中に消しゴムがあふれている

何でも好きなものを消せばいいと男は言う
私がいちばん消したいのは
その男だ
でも男はするりとかわしてなかなかつかまらない
いつも男の後ろにいる女を消してしまう
男の前を歩く猫のしっぽを消してしまう
今日なんか
もう少しで預金通帳の数字を消してしまいそうだった

男は変化自在に動くので
家の中にはちょこまかと消えたものが多い
でも何かとうるさい隣人を消した時はすっとしたし
うるさく食い下がってくる勧誘男を消した時は
人生が静かになった
ゴミは分別なんてくどくどいう環境局長ごと一消しだ

消しゴムを持って
雨を消し 風を消して
今夜も男がやってくる

近頃
この男の消しゴムはちょっと消えが悪いくなったのだろう
愛が薄くなったのだろう
世界が中途半端に残って
私の心が少し薄汚くなってきた

所属団体 日本ペンクラブ、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、関西詩人協会   
所属詩誌「ラビーン」 
著書『林檎の記憶』『うそ時計』『13月・目撃』他





今井 豊

「もう 笑うしかない」

 

悲しいとき

辛いとき

地平線を見つめるように

表情の変化は

風のささやきと

波のゆらぎにまかせている

ずっと遠くを

さらに遠くを見つめているだけだ

 

笑いを失ってから

長い時の陳間に

息を止めては吐き出し

死ぬかもと

責めるものを見つけては

生きていることを知る

 

笑いを失うとは

人間をやめること

人間でなくなること

人間をあきらめること

 

ちっぽけな自分だけの世界でさえ

人間でありたいのだ

 

明日の命もわからない

戦火のなかで

子供が笑っている

 

もう 笑うしかない

人間であり続けるには

人間として生きるなら

顔だけでも

もう 笑うしかない

所属団体  関西詩人協会
所属詩誌  「総合詩誌PO」
著書『今井豊詩集 一枚の絵』





上嵩小百合

「わたしのあいするひとたち」

 

わたしのあいするひとたちは

きょうもはるかくものうえ

そらにぽっかりあながあいた

ちきゅうというなのほしくらい

ぼっかりあいたそらのした

あなだらけえのほしのほし

ほしのほしのかせんのじきで

だいのじをしてねっころがった

そこにあるものみえるもの

みどりのみどりとそらのそら

ひっくりかえってごろんとすれば

そらいっぱいにほしのほし

あなだらけえにさよならすれば

ほしいっぱいのそらのそら

わたしのあいするひとたちに

やがてほしがそそぐだろう

いっぱいゆめのむねのなか

わたしはきょうもおいのりする

あしたもげんきにすごせるようにと

きょうもおいのりするわたし

所属団体 日本詩人クラブ  関西詩人協会

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