「会員の詩」の頁です。

関西詩人協会自選詩集(第7集)から
掲載させていただきます。

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テーマ:「夏」




紀ノ国屋 千

「陶器祭り」


おれが、おれがという時代に住んでいると
すこーし前に
あなたが、あなたがという時代があったことが
胸に染みるように、ジーンと恋しい

今年も8月7日から京都五条坂で陶器祭りが始まった
放り出す事が生理の男の体からは
決して創れなかっただろう土の化身

いつの時代も、ただ身勝手に投げ出す男の残渣を
広大に包み込んだ
女のあまりにも哀しい包容の営み
包容とは、包み込む器

縄文と呼ばれ、弥生と呼ばれ
遠い遠い、時の彼方にも愛の形をした女の器
土器 陶器、磁器、技の進化に追いすがる愛

今、21世紀
暴走した熱が、アスファルトを溶かす五条坂
色・形・想い・情念・ありとあらゆる自由の陶器が並ぶ
愛はミクロの単位に集積され平面になった
遠いけれど、豊かだった日々の
「包容」の残影を幽かに秘めた陶器の造形群
 
欲望のはての自由に包まれた女と、男がそぞろ歩く
夏の夜の五条坂
人が流れる 風が流れる

露天の風鈴が、チリン

風に姿を変えて
放浪し始めた人間の「愛」の面影たちは
何を語ろうとするのだろう

所属団体  関西詩人協会
所属詩誌  『新現代詩』
主な著書   「風の物語」(日本詩人文庫第41集)




藤原節子

「炎天下の儀式」


七月の桃畑には
木の枝に紙袋をかぶった
少数の桃と
土の上に転がった多数の桃

昨日まで 同じ木の枝の仲間だった
大陽の光も
雨風も
一つ木の枝の上で
一緒に浴びて
笑ったり 泣いたり 喧嘩したりしてた

土の上の桃
悔しかろう
このまま朽ちて
肥やしになるなんて

木の枝の桃
寂しかろう
仲間と別れ
目隠しされて

炎天下の桃の木は
摘果の儀式に 震えている

所属団体  関西詩人協会、日本児童文芸家協会、民主文学
所属詩誌  『PO』
主な著書 「女の像」「冬の夕日」評論集「映画の中の少年少女たち」





山本なおこ

「蝉」


蝉がころがっている

 

羽は破れ 頭には穴があき 足はもげ

蟻たちさえ捨てていった

 

どこからどこまでぼろぼろの蝉だ

 

風が吹けば

からからと音をたて

 

月の明るい晩には

心臓さえ透けて見える

 

だが

見るがいい!

蝉の瞳を

 

シンバルを打ちならしたような

夏の光を

今も激しく映しているではないか

所属団体  関西詩人協会、日本児童文学者協会
所属詩誌  『PO』『伽羅』
主な著書 「さりさりと雪の降る日」児童文学詩選集「山本なおこ詩集」絵本「さっきはごめんね」

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