「会員の詩」の頁です。

関西詩人協会自選詩集(第7集)から
掲載させていただきます。

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辻田武美

「気がかり」


小学生当時に友達と行った
鍛冶屋さんの薄暗い仕事場で
吹子のプープー フーフーという音を聞き
金色の火を見ている
体はだんだんほてってくる

曲りくねった中枝小枝を四方八方のばし
どっしりかまえている榎
おまえは近くの堤から竹やぶが消え
コンクリートの石がきが増えたことも
川遊び中の子供達の歓声も知っている
多くの木のぼり少年を育み
甘い小さい実を口の中へ降らせた
いま お前の年齢は何歳だろうか

床屋さんで待時間に紙上で読んだ
雑阿含経の文面はどんな内容だったか

夜中の大雨でどんどん増している
自宅近くの川の水が
どのあたりまで来ているか
カンテラの明りで照らして
おそるおそる見に行った不安な水位

趣味というものは
やりはじめたら三十年はやるべきだ
との立ち話が駅頭でふと耳に入り
はげまされて帰宅する

所属団体 関西詩人協会 
所属詩誌 『葦』
主な著書 詩集『ちくのう村』『無明』『道すがら想いはひろがる』




植野高志

「残り火」


何かでかいことをしたかった
世界の注目を浴びるような
世間の度肝を抜くような

幼い時に夢見た野望

それが今じゃ
世界のスピードにすら
追いついていない始末

満員電車の窓から
世界を見てこう思うんだ

「ああ、これでよかったんだよ。
きっと。」

だけど僕のココロには
まだ幼い部分が残っていて
「まだ終わっちゃいないんだ。」
と言う

幼い自分
「世界の中心」
という名の残り火が

何者でもない僕の命に
火を灯し

それが詩となって生み出されていくのだ

そう
この満員電車の片隅で

所属団体 関西詩人協会、PO会員
所属詩誌 『PO』
主な著書 イラストポエム『絵本ひと』文芸社





早川玲子

「逃げた形容詞」


たしかに訪れたはずなのに
しののめの光のなかでは
もうどこにも居ない

ここ数日探しあぐねていた
未完成の一篇の詩のハイライトの空白に
ぴたりと嵌まった
短い形容詞

近づいては捨てられた
数々の仲間の屍のうえ
「あゝ」と声がでたのは
消灯後のべッドだった

一本の筆記具が無く
頭に留めおこう と思い定め
心たいらに眠ったのに―
いま 広がる朝の光のなか
おまえは なんの跡形も残してはいない

究極の気に入りに 一瞬出合ったからは
それが無ければ
もはや 手元の一篇は
オ(、)シ(、)ャ(、)カ(、)になる

それにしても どこへいったか
逃げ足が速いなあ
やはり
一夜の闇 頭中の闇に揉まれ
腹を空かせた夢魔に 喰われてしまったか

所属団体 関西詩人協会
所属詩誌 『RAVINE』
主な著書詩集 『神みしり』『わたしの薪』

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