会員外の方の作品

 

 皆さま「これは!!」という作品があり、掲載許可を戴いたものならメールでお知らせ下さい。このような形で発表させて頂きます。期間は掲載してから半年ぐらいにしましょうか?( 永井ますみ 記)

騒77号へ掲載されていた詩です。
ご本人の許可を得て掲載します。(永井)
 


沈める葦 沈める蝶  千早耿一郎


延々とつづく葦の列であった
ほころびた無数の掌を掲げ
いつまでもわれらを見送ってくれた
まるで出棺を見守る弔問客のように
暗い船底からぼくは這いだし
雨に打たれて葦たちに決別する
だがやがて
千万の手を掲げたまま葦たちは
つぎつぎと海に没して行った


すでに太陽は砕け
赤い破片となり無数の棘となって
あるかなきかの水平線に
崩れるように突き刺さっていった


ほのかな残光のなか
そのときぼくは見た
はらはらと翔んでいる蝶の一群を
船を追いかけるかのように……
破れた翅 折れた尻尾
かろうじて残っている青い線状の
鮮やかさがいたましく


アオスジアゲハ 二羽そして三羽
船を慕い船を追うかのように
よろめきたゆたい
這い上がってきた黄昏の甲板
舷側を越えようと
けんめいに羽ばたいていたが
ついに越えきれず
ひたすら蝶であることを主張しつつ
やがて舞い落ちていった
暗くて茫洋たる波の間に





作者コメント
「沈める葦 沈める蝶」は、過去のことでもあり、現在の心のイメージでもあります。葦は中国におけるわたくしの友人でありました。
わたくし、幼少時、上海・青島で育ち、神戸に帰国、のち従軍してふたたび中国へ。頭蓋骨に弾痕あり。


著書(★は言語関係 ☆は一分言語関係)

詩集
『長江』『黄河』『風の墓標』『★言の葉詩集 いちゃりばちょーでー』『☆千早耿一郎 詩集』

評論
『★悪文の構造』『★仁義なき日本語』『☆事務の科学』
小説
『防人の歌』『蝙蝠の町』
評伝
『おれはろくろのまわるまま──評伝・川喜田半泥子』『大和の最後 それから──吉田満、戦後の航跡』



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