すみくら まりこ委員


所属団体:日本国際詩人協会、京都セルバンテス懇話会
     日本詩人クラブ、関西詩人協会、現代京都詩話会
所属詩誌:国際詩誌「詩の架け橋:天橋」、季刊誌「PO」の会
国際活動:日本国際詩人協会事務局長(2011.4)
     国際詩誌「詩の架橋Ama-Hashi(天橋)」編集主幹
趣味:旅行、映画、音楽鑑賞、洋裁、手芸


作品 ・ 受賞
短編小説「流星譚」    第46回 コスモス文学新人賞(1993.8.1)(筆名 成田 恵)
ほか入選作「夕映えの彼方に」「不思議の女に」
著作
「心薫る女(ひと)」竹林館 2008年5月
「夢紡ぐ女(ひと)竹林館 2009年5月
「光織る女(ひと)竹林館 2010年5月
「愛装ふ女(ひと)竹林館 2010年8月
「地(つち)抱く男(ますらを)竹林館 2011年5月


 

「誘蛾灯」

 羽虫が飛べることの哀しさ。地を這う虫はそれを知らない。空(くう)を遊ぶ彼らを見て、踏み潰されることのない幸せを羨むばかりだ。彼らはこぞって涼しい夜の川原が好きだ。橋げたの水銀灯に群がり、水面ゆらめく光の上までも遊ぶ。
 無数の生が乱れ舞っている。光あるところ、光受けるところへと・・・彼らは朝を待てない。暗闇に浮かんでいる光の舟を見れば、全身の力をみなぎらせて向かってしまう。生きんがために。

 誘蛾灯。その美しい色。深い青の悲しさに深い緑の哀しさが入り混じっている。それは罠として使われる。いったい誰がこんなものをおもいついたのか。その神聖な習性を逆手にとるとは。羽虫を誘うランプまわりに電気を流すとは。

 科学と発明、絶妙なコンビネーションが死を商う。

「パチッ パチッ    パチッパチッ
   パチッ  パチッパチッパチッ
 パチッパチッ パチッ パチッ
  パチッ パチッパチッ
  パチッ    パチッ ・・・ ・・・ ・・・」

 この不規則な音。延々と夜が明けるまで続くこの音。モヤモヤとうごめく玉のなかで「パチッ」のひとつひとつが紛れもなく虫が焼かれる音。死の音。静かな舗道に、時折は車の騒音にかき消されながら。

 夜が明けるころ、幸運な蛾たちですら、夜通し飛んで飛び続けてぐったりと死を迎えるのだ。吊り下げられたランプの下、あたかも円を描くように死骸はうっすらと堆もる。

 毎夜繰り広げられるこの悲しい乱舞。力ないものほど生きるのに懸命である。しかしわたしはこう考えることにしよう。
 「彼らは決して自分を哀れまない。」。と。
 「すべて自分のつとめを果たしたあと、愉快に踊っている。」、と
そして
 「自分でその命を完結させている」、と。

 ある静かな夜、川沿いを歩きながらこう思った・・・

 


 

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