瀬野とし監査委員





詩集『おはなし』『なみだみち』『線』
日本現代詩人会・詩人会議・炎樹 所属

  埴輪  
        瀬野とし




茫洋としたあたたかな笑顔を 表に
怒りをふくんだ悲しみの顔を 背に


あいだに空洞を抱いて
二つの顔をもつ埴輪が
はじめて出土したという
和歌山 大日山古墳から


穿(うが)った目の上がり下がり
口の開きぐあいの わずかな差
いきいきとうったえる二つの表情に
こころひかれ
そのすがたを 壁に止めた


墓を守る 盾をもった武将
供物を捧げもつ女性 琴を弾く男性‥‥‥
埴輪には役割があるが
二顔埴輪は
何のためのものかわからないという


たとえば
笑わせ
涙を誘う
芸をするひと?


埴輪づくりは
奴隷のしごとだったという
つくったひとの
まなざしと手つきを 想う
 

二つの顔をもって
わたしの部屋で生きる
古代のひと


あなたは きっと
ふつうのひと
わたしのような


喜びの目をのぞくと
暗がりに 悲しみの光が見える
悲しみの目をのぞくと
暗がりに 喜びの光が見える




朝日新聞記事より


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