島 秀生



これまでも何度か東山魁夷展で『道』を見たことがある
坂の向こう側で右に折れ
空に向かうかのように昇っていく道は
若い頃の私には到底登りきれない急斜面に思えた
果てしない至高の道を描いているのだと思った
けれど昨年見た『道』は角度がなだらかに見えたのは
どうしてだったろう
手前の登り坂の道はいったん下っているから
途中で切れたように見えなくなっているのだとわかる
下った道からのV字の登りであるから
その先の登りは実はそんなに急斜面ではないのだとわかる
これなら私にもなんとかなるのではないかと思えてきた
魁夷は最初から
超えられない坂など描いてはいなかったのではないだろうかと
人生の終盤になって気づく


           ─── 島 秀生「春に続く道」より

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