阪南太郎



小さな学園にて     阪南太郎  

 

「太郎は、おしゃべり苦手やのに外国語習うの?」

こんな言葉をかけられながら学園の門をくぐった日、

「エレベーターあちらよ。」

と教えてくれた名前も知らない方、

ありがとうございます

「太郎君、次の授業、どの教室やった?」

と僕の名前を覚えて呼んでくれた広子さん

ありがとう

文法書と辞書にしがみついていた僕に

「今の君のままでは語学が出来てもあかんぞ。」

と言ってくれた次郎君、

ありがとう

 

智恵子抄が日本文学で一番好きだった恵子さん

ロルカについての論文を徹夜で書いていた一郎君

七行の短編小説を書いて先生を唸らせた茂雄君

みんな僕の目標だった

みんなのようになりたくて

ロバに語りかける詩集「プラテーロとわたし」を

何度も読んだあの日々があったから

今、夫婦で詩を書いている

たくさんの詩の先生にも巡り合えた

動詞の変化も冠詞の使い方も忘れたけど

 

チャップリンの平和の願いを熱く語ったてくれた秀樹君、ありがとう

ペンを持つ者が忘れてはならない

人類共通の願いを教えてくれて

 

今、僕の目の前のチリのある絵本を開くとね

遠く離れた二つの岸の人がね

大きな橋の上で

笑顔で手をつないでいるよ

 

参考文献「むこう岸には」マルタ・カラスコ作 宇野和美訳ほるぷ社

*「プラテーロとわたし」・・・スペインのノーベル賞詩人、ヒメネスの代表作。まど・みちお、長新太なども愛読した。
inserted by FC2 system