関西詩人協会運営委員の頁




嵯峨京子



「映像の馬」

 

 

高原を裸馬の群れが走る

内モンゴルの遊牧の民は
こどもの頃から
馬と共に生活をする
よく人をたすけ
よく働いた馬は
野に還されるのだという

よく育った駿馬は
遠くへ売られていく
そこで働き 年老いた馬を
野に放ってやると まず
生まれ育った家を目指し
歩きはじめるのだという

高原をひとり歩く馬に
出合うことがあれば
人はそっと水を与えて
また送りだすのだという

モンゴルの大草原を
生き生きと走る馬の映像を見ながら
わたしは別の馬の映像を重ねていた

肋骨が浮きでるほど痩せた馬が
人のいなくなった町を
よろよろと彷徨い歩いていた
せめて 一杯の水を
差し出すことはできなかったのか
たとえ汚染された水であっても

あの馬はどこへ向かっていたのだろう


inserted by FC2 system