関西詩人協会運営委員の頁

   会報担当  永井ますみ




略歴
1948年鳥取県生まれ
1970年より大阪へ、後現住所の神戸に住いする。
既刊詩集 『風の中で』(新詩流社) 『街』(VAN書房)  『コスモスの森』(近文社)
       『うたって』(近文社)  『時の本棚』(摩耶出版)
       『おとぎ創詩・はなさか』(竹林館)
       『ヨシダさんの夜』(土曜美術社出版販売)
       『弥生の昔の物語』(土曜美術社出版販売)
       『短詩抄』(山の街企画)
エッセイ集『弥生ノート』
所属
 詩誌RIVIERE(リヴィエール)、現代詩神戸研究会、新・現代詩
 団体 関西詩人協会、兵庫県現代詩協会、日本詩人クラブ
HP山の街から抱負等
インターネットを通して、関西詩人協会の宣伝に勉めます。そしてより楽しい交流ができたら良いですね。

連絡はメールで




弥生の昔の物語 (序章) 永井ますみ


戦後の開拓に入った父が
鶴嘴(つるはし)で木の根を掘り起こし
馬で鋤を掛けて
幼い私たちが競って土器の破片を拾った所
うすい素焼きにひっかき模様
トタン屋根のあばら家の
暗い土間の隅っこに広げて
パズルのように組み立ててみる
雨の日の楽しみ


父が死に
兄が老いて
甥がトラクターで更に深く掘り起こす

黒い表土が払われて
今更のように
現れてくる
うっすらと円い暮らしの跡


火を絶やしたらいけんよ
火は命だけん
何度も何度も焼き締めた
いろりの土があって
急峻な谷筋へ
獲物を追った父を待つ
幼い姉弟の不安が焦げ付いている


転んで手を折った
それから死んだ
ひとの魂が
今も漂っているというその谷筋の
恐ろしげな
笹の葉を叩く雨の音を凌いで
耳から離れなかった所


       「関西詩人協会自選詩集第四集」より





水槽に満たして


水槽に
ちいさな おさかなを飼っている
おなかがすくと
さりさりさりと
ひれを こすりあわせて
合図をおくってくる
水面がひくひくと波立つ
睡眠のきれはしを口にすると
しばらく おとなしい


ひだりの胸の水槽に
すこしおおきくなった おさかなを飼っている
ひんぱんに おなかがすくので
水槽のみずが あふれそうになる
睡眠を力に換え
睡眠を泡に換え
睡眠を排泄物に換えて
もっと もっと
私にねだる


私の左の胸の水槽は
おおきくそだってしまった 
おさかなでいっぱいだ
おさかなの動きが 
手にとるようにわかるので
それで喜んだり
不安だったり


私はおさかなに
飼われている
おさかなに差し出すために
睡眠にのめりこみ
夢の中でおぼれる



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