関西詩人協会運営委員の頁

村田辰夫(むらたたつお)委員




略歴
1927年(昭和3年)滋賀県大津市生まれ、大津商業から
1943年 陸軍少年通信兵学校、北支派遣電信第九連隊、復員(46年)
1947年 同志社大学、同大学院修士
1952年 膳所高等学校教諭
1966年 梅花女子大学
1980年 ケンブリッジ大学ウルフソン・コレッジ客員教授
1998年 梅花女子大学名誉教授
詩集
『おもいの国土』(1974年)、『わたしは鵜です』(1991年)
『大津絵』(2008年)
著書
『T.S.エリオットと印度・佛教思想』(1998年)
訳書
T.S.エリオット『F.H.ブラッドリーの哲学における認識と経験』(19
86年)、『フィリップ・ラーキン詩集』(1988年・共訳)、『シェイマ
ス・ヒーニー全詩集』(1995年・共訳・第32回翻訳出版文化賞受賞)、
シェイマス・ヒーニー『水準器』(1999年・共訳)、T.S.エリオット
『三月兎の調べ』(2002年)

所属団体・詩誌
日本T.S.エリオット協会(会長)、日本翻訳家協会(役員)、関西詩人協会(運営委員)、日本詩人クラブ、近江詩人会(会員)
『らびーん』、『沈黙』(同人)



村田辰夫さんの詩

         ヒョットコ

ある朝 ヒョットコが鏡の横に現れた
いつから そこに
ヒョットコは手垢のついた火吹き竹で火を吹いている
酸っぱい梅干を頬ばったような口をして
ふう ふう ふう
ひい ひゅう ひゅう
ふう ふう ひい ひい ひゅう ひゅう ひゅう

見よ 僅かに残った熾きが爛れた腫物色になってきた
そこは過去の情欲や野心が宿っていたところ
ヒョットコはそこに向かって息を吹く
だが周りの焚き木は燃え果てたのか
吹いても 吹いても 火のおこる気配がない

それでもヒョットコは息を吹く
空っぽの筒の中へ息を吹く
ひい ひゅう ひゅう
ふう ふう ふう
火吹き竹から漏れ出る空気が的をはずすと
舞う灰神楽
実盛の鬢と化す
ええい 構やせぬ いまさら誰に見しょとのものでなし

火吹き竹に息流れ
火吹き竹には節がない
そこに向かって息を吹く
最後の日まで息を吹く
ひい ひい ふう ふう 息を吹く
ヒョットコは最後の日まで息を吹く
ピイというまで息を吹く  


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