懐かしい言葉


                                                     

                                                                 播磨カナコ



 「最近の言葉には、ついていかれへんわ」という小学5年生の孫の言葉に「え!」とびっくり。この頃は新しい言葉が出てくるわ出てくるわで「もう、ついていかれへんね」と同世代の友人とお喋りしたところだったのに、孫世代までも、そんなことを言うとは!
 言葉は確実に変わってきている。方言はどんどん均されて、忘れ去られていく。淋しいものだなあと、大阪生まれの大阪育ちの友だちたちに、小さいときは「食器棚」のこと「みずや」と言うてたよねと言うと、みな「うんうん」と肯いた。ところが「おでん」は「かんとだき」、「どらやき」は「みかさまんじゅう」、小さいお皿は「おてしょう」と言うてたよね。と続けて言うと、なんと友だち4人のなかで肯いてくれたのは、たった一人だった。
 そういえば「大阪くらしの今昔館」に行ったとき、江戸時代の町家で、台所の流しのところに「走り」と書いてあるのを見つけて大興奮したことがある。子どものころ「はしり」と言っていたが、漢字でどう書くかは知らなかった。そして江戸時代の言葉だったとは!!!
 それで「はしりって、走るという漢字やってんね。知ってた?」
と、これまた大阪生まれの友だちに言ってみたが、「そもそも、はしりって、なに?」と言われてしまった。これは10人くらいに聞いたが、「はしり、言うてた」と言ったのは、一人だった。
 だいたい友だちの両親も大阪生まれだというのに、言葉がこんなに違うとは思ってもしなかった。
 極めつけは、わたしは童話を友だち三人のグループで書いているのだが、書いてきたお話を、合評しあう。そのときわたしが書いた「ネコがそばえた」というのが、わからないと言われ、「そばえるって、なに?」と聞かれたことだ。「じゃれる」と言う意味で、今もまったく標準語的な言葉と思っていたので「ええ!知らんのん?」と二人に目を剥いた。二人はあっさり「知らん」と答えた。「大阪生まれやんなあ」と今さらのことを言ってみるうちに、一人がスマホで「そばえる」を調べた。「枕草子で使われてるわ」と言われてしまった。
 子どものころによく使っていた言葉は、誰が使っていて、わたしが馴染んだのか、もう今となっては聞く相手もなく、知るすべもない。



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