北枕


高丸もと子

 

 

友人がひし形の家を建てた。北枕にして眠るためだと。彼女の説明によると地球は磁石。
頭をN極にして横たわると赤血球の鉄分によって血液循環がよくなり、地球の磁力線のエネルギーがプラスの作用を及ぼすというのだ。
ずっと以前の新聞記事を思い出した。世界各地で8500頭以上の牛の多くは放牧中に南北を向いていた。チェコで2900頭以上の野生の鹿の雪跡に残された「寝床」の多くも北枕だったと。渡り鳥は地磁気を感知して渡って行くことは既に実証されている。
私の小さい頃には、昼寝をする時でさえ北枕にしてはいけない。北枕で寝ると死んでしまう。いわゆる「ゲンが悪い」と言われてきた。北枕が忌み嫌われる理由はあるのだろうか。
昔、北枕に安置されていた死人が、地球の磁力で、偶然息を吹き返した例があったとすればどうだろう。驚きの余り「北枕」と「死人」のイメージだけがセットされて固定概念ができあがった。そうだとすれば、言い伝えの奥には科学的根拠が隠されていることになる。また、釈迦の涅槃図では頭を北に向けた姿勢で描かれている。これは極楽浄土を願ってのこと。むしろ縁起がいいのにどうしてだろうか。それはお釈迦様のような偉い人と同じに凡人が北枕で眠るなんておこがましいといった考えが仏教にはあるからとも聞く。
日常生活の中でも、私たちは地磁気を感知していらしい。南北を向いて座っている時と、東西を向いて座っている時とでは脳波に違いがあるという。地球の磁気は確かに存在してるのだ。
ちなみにヨーロッパでは、北枕で眠る人が多いとか。私たち家族も北枕にして久しい。一日の疲れが、地球の磁力を受け、血流が緩やかに巡っているのをイメージして眠りにつくのは何とも心地いい。大きく息をしているうちにすぐに眠りに入っていく。夜中に目を覚ますこともあまりなく、ぐっすり眠れた実感がある。これこそ北枕の恩恵だと思っている。

  

 

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