母とお正月


木村勝美

 

 93歳になった母は田舎でひとり暮らしをしている。腰が曲がり歩くのが疲れるといいながらも、畑のこと家の周りのことで忙しいそうだ。私と2人の妹は母のことが気になりながらも遠方なので、「できるだけ帰省する回数を増やす」というスタイルで接している。90歳まではバイクで動けていたが、免許返納後は出かけることが不自由になった。家族ラインには長い文章が送られてくるし、電話での声や様子は心配なく暮らしているように思えるが、帰る度に「忘れることやできないことが増えた」と感じる。「あんたたちは子どもが近くにいるし仕事もあるし・・」と自分に言い聞かせながらもこの頃は「寂しい」と言う言葉も加わるようになった。

「通販が得意(?)で頼むのにそれを忘れることが多くなった母」の「おせち騒動」が起きた。年末30日に冷凍のおせちが2つ届いた。親戚が送ってくれる分とそのことを知っているはずなのに母が通販で頼んだ分だ。そして翌31日には近隣の町で有名な仕出し屋さんから3万円のおせちが届いた。三段重は一段が九つに枠で区切られさすが仕出し屋さんと思える細かい細工がしてあった。今年は母と私と息子の3人におせちが3つ。「このひと枠が1000円かー」しげしげと眺め、ため息が出る私と息子に母は「どんどん食べんちゃい」「好きなもんだけ食べたらいいよ」と明るく言っていた。返事に困ったときには「忘れたー」というようになったので、バツが悪いと思っているのか忘れているのかよくわからない。今、まだ開けてないおせちがひとつ冷凍庫に入ったままになっている。(田舎には洗濯機の2倍くらいの冷凍庫がある)「これなんやったかいねえ」先日妹が帰った時冷凍庫を開けて母が言ったそうだ。すっかり忘れている。こんな話が増えてきた。


 

 

                  

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