本は残る


永井ますみ

 


 

 このところ2019年末のコロナが変幻自在に人間界を攻めている。関西詩人協会でもご多分に洩れず色んなイベントを中止している。しかし、委員の一人としては「晴れた日の事を考えて」準備を怠る訳にはいかない。
 という訳で、2022年3月3日に今期「文学散歩」を予定している豊中市を訪問した。私は神戸在住で、青春時代の数年は大阪にも居たが余り詳しくない。阪急宝塚線で向かう途中、庄内という町がある。昔、近文社の伴さんが住んでいたところだ。一度だけ何人かで訪れた事がある。公園で蝉がひっきりなしに鳴いていた覚えがある。
 目的地は岡町の熊野田公園という事だが、ネットでみた「豊中広報」を閲覧すべく、岡町図書館に立ち寄った。そこで広報とは別に『大阪春秋・北摂』や鹿島友治氏の『小説にあらわれた豊中』や大森実氏の『豊中市史』などを司書の方に教えて頂いて、見学場所の確定に大いに役立った。
 「大阪春秋21号」の記事の下には、紙面作成の苦労と金銭的苦境が記してあった。表紙絵が万博なので約50年前の記事という事になる。いつか大阪の梶井基次郎の「檸檬忌」でお目に掛かった福山琢磨という方を思い出した。彼の名刺には「新風書房」とあったが、「大阪春秋」の発刊元らしい。自分が大病して、体も思う様にならないので、もう廃刊ですと嘆いておられた。その時、地図があるので良かったら差し上げると云われた。その頃準備していた文学散歩「泥の河」の福島辺りの古い地図が欲しかったので、ねだった。間もなく送られてきた地図は当時住んでいた人々のネームも表示された詳細なもので小躍りしたものだった。
 で、文書になっていると残るなあとしみじみ思う。私達が調べているのに釣られて、図書館の司書の女性もひとしきり読んでいた。




 

                     



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