空旅の窓より


美濃 吉昭

 


 

 夏、伊丹より空路仙台へ向かう。一時間の空の旅。高度五千メートルの雲海の上は快晴だ。

 白い綿雲の上は眩く光に満ち溢れ、浄土のように穏やかで、無音の世界を滑って往く。

 機内はジエットエンジンの音が、少々うるさいが……。 

 そこへ、遠く右手に一つ、まったく一つだけ、下界から雲海に頭を突き出している山が見え近づいてくる。

 一瞬、山ではない。

 「白髪の仙人」が雲上に座っているかのように思えた。 

 富士山だ。機内の眼は、一斉に窓にへばりつく。

 高い山頂の持つ植生不毛の岩石と、榛松から高山樹林が続く猛々しいイメージはない。

 雪の帽子を乗せた円錐形のシルエットは、人の文字形をして優しい。 

 世界中に同じ風情の山はなく、唯我独尊の山だ。

 

 若い頃ハワイからの帰途。太平洋上から遥かな本土の島影の上に、白い冠の富士を、あかずに観たことを思いだした。

 隣席の外人客が「オー、フジヤマー」と呟いていた。  

        (詩集を出すための最終原稿に、滑り込ませたのが次の詩です。)

   富士

     

  空路 雲海の上

  陽光のさんざめく天界

 

  白髪の御先祖様が 雲の上に

  「どーん」と座っている

 

  不二 三七七六米

  「ふたつと無いぞ!」

 

  雲の下は……?

  「わしらの国じや!」

  

  敬天愛人……?

  「そのとおりじや!」      

  不尽山 不変不動         

  文句の つけようがない

 

    *太古、極寒の大陸からやってきた狩人の先祖は、

     この霊峰を見て「畏れと感動」をもらい、日本人となった……のかもしれない。

 

                     



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