仕事を辞めて、映画が好きだと分かった話


森下和真

 

          
仕事を辞めて求職中の身であるため、日によっては、お昼ごろに起床したりすることもある。だけれど、そんなことにはおかまいなしに世間は進んでいくのだった。たまに手軽な手伝い仕事をすることもあるけれど、フルタイムで働いているときよりも自由な時間があるので、本を読んだり、映画を観たりしている。

もともと映画は好きでよく観ていたのだけれど、働き始めてからは、あまり観ることもなくなっていたのだった。新作映画の予告を見ても実際には観に行く気もなく「あんなに映画が好きだったのにな」と思うこともあった。映画を観なくなった理由として、おもしろい映画がなくなったからだとか、映画を観る感性がなくなったからだとか、思っていたけれど、仕事を辞めてみて、そうではないと分かった。

映画を観なくなったのは、ただ忙しくしていたからだと分かったのだ。今となっては何がそんなに忙しかったのかは謎だけれど、ときに偉い人の思いつきや、誰かの失敗、または自分の甘さや、その他いろいろの要素が、何かを忙しくさせていたのだろう。「忙しいつもりの世間」が忙しかったのだ。そんな忙しさから少し距離をとれる今だからこそ、ここぞとばかりに映画を観ている。心が満たされるようでうれしい。

約30作品ほど観たけれど、それらの作品それぞれに観るべきところがあった。ここでその詳細を述べることはできないけれど、あらためて映画の素晴らしさを感じることができたし、私はやっぱり映画が好きなのだと思った。そういう考えに至ることができたという意味では、いまの状況も悪くはなかったのだと思っている。

「信じる者が一人でもいれば その物語は真実に違いない」
映画『スモーク(原作:ポール・オースター)』より

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