コロナ禍の中 画面で聴く様々な言葉に心が揺さぶられる

*    歴史学者 藤原辰史 ・《風の谷のナウシカ》 宮崎 駿 

 

司 由衣

 

         
 

*「第一次世界大戦というのは、始まった当初、すぐに終わるだろうという楽観的な希望があった。ドイツでは皇帝イルヘルム2世が「クリスマス前には戦争が終わり、兵士の皆さんを家庭に戻します。」と公的に言っていた。それは大いなる裏切りだった。クリスマスどころか1918年まで戦争が続いた。アジア太平洋戦争でも、敗退していても、それに対して「転進」という言葉を使って、人々に発表していた。歴史というのは常に為政者や権力を持っている側の人たちの、曖昧な言葉や、甘い言葉が……。

◆「人類が新型コロナウイルスに打ち勝つ証として、東京オリンピック パラリンピックを完全な形で実現する」安倍晋三
◆「これは史上最悪の攻撃だ 真珠湾攻撃や同時多発テロよりもひどい」トランプ大統領

《ナウシカの世界でも権力者による根拠のない甘い言葉が囁かれる「森をつかうは戦を一刻も早く終わらせるためだ」躊躇う部下も権力者の言葉によって、戦争を長引かせる悲劇へと突き進む。腐海の森から作り出した人工兵器により,虫たちは狂い殺し合う。そして人々の命が奪われていく》

*「歴史を振り返ると戦争が人々の間に排除を生んできた。勝つためならということで、犠牲が払われることが日常になってくる。この勝ちというものに対して、少しでも足を引っぱるような人たちを、例えば第二次世界大戦では非国民という言い方で非難して攻撃をしていた。排除というものが、戦争状況になると出てくる。例えば魔女狩りのような形で、コロナウイルスが発生した場所に向けて、攻撃的な言葉を投げつけたりとか、医療従事者に対しても攻撃的な言葉が投げかけられたりとか、一つの場所にみんなが石を投げているから、そこに向って投げよう。というふうな……」

※「私事(司由衣)で申し訳ないのだが、私の息子の中学時代は、勝ち組とか負け組とかに振り回されていたようだ。陰湿なやり方での戦いが排除(いじめ)を生んだ。一人を標的にみんながそれに向って無視をする。みんなと同じにしないと矛先がわが身に向けられる。その恐怖からいじめをする側に加担する。しかし彼は加担しなかった。だからやられたのだ。標的になった彼は、たった一人でクラスのみんなと立ち向かわなければならなかった。その深傷を抱えたまま高校〜大学へと進学したが、やがて精も根も尽き果てて精神を病んだ。それからの日々は、幻聴、妄想、強迫観念、不眠、体調不良に苛まれ続け、二年間休学した後、復学をして大学を卒業したが、再発を繰り返して就職活動には至らず「弱肉強食の世界は嫌いだ」小さな声で呟き、昨年5月の朝のこと、五階建ての窓から、青い空の遥か彼方へと翔んでいったきり、彼は帰って来ない。彼の本棚に《風の谷のナウシカ1〜7》があって、彼が愛読していたその本を、今回もう一度私は読んだ。
画面のナレーターの言葉を聴きながら、導かれながら読んだ。
                                                   
《腐海の森から作り出した人工兵器により、虫たちは狂い殺し合う。そして人々の命が奪われていく。物語の中でナウシカは、全ての命がこれ以上血を流すことがないようにと奮闘する。人々が恐れる虫に心を通わせ『私たちはあなたたちの敵じゃないわ…』と
卑しき者と差別され自らを恥じる人々へ、ナウシカは自分の体に触れさせ、『あなた達と同じに温かい血が流れているわ』そして腐海の毒に侵され吐血する兵士には躊躇なく唇を重ね、汚れた血を吸い出す。菌類の出す猛毒の大気で人を死に至らしめる腐海。
ある日、腐海の奥底に落ちたナウシカは愕然とする。予想とは違い清らかな空気に満ち溢れていたのだ。『人を殺す腐海が、人が穢した世界を浄化し、人を救う存在でもあった。ナウシカは考える『私たちが汚れそのものだとしたら…』 *人類と腐海の共生
 
*「この共生という美しい言葉で人々を導き、世界を変えた政党がナチスだ。1933年に動物保護法、1935年に自然保護法という法律を作る。ドイツの自然を経済が破壊している! 自然との共生 この言葉は、ある農学者の言葉である。「これからのドイツの農業というのは、化学肥料を与え過ぎないように、有機質肥料を使いながら、サステナブル(持続可能)にやっていこう」と言った人で、コンラート・マイヤー(ナチス党員である)コンラート・マイヤーの指揮の下、動植物との共生をうたったナチスドイツ、しかしそこに、他民族との共生は含まれていなかった。この農学者の頭の中には、「人間はある人間と共生できない人種主義」それが普通に併存していた。高貴なアーリア人ではない人種が排除された。つまりよく知られている「ナチス」というのは、ユダヤ人の虐殺を、消毒をするための薬品によって、虫のように殺していった。 自然との共生をうたう一方で、ユダヤ人をはじめ、スラブ人や障害者らを排除していった。

物語の中で《石になった木は砂になって降り積もる。サラサラ…サラサラ…》ナウシカは気づく『きっと腐海そのものが この世界を浄化するために生まれてきたのよ、太古の文明が汚した土から 汚れを身体に取り込んで 無害な結晶にしてから死んで砂になってしまうんだわ』旅を共にしてきたテトを埋葬するナウシカ、そこにこの庭の主が現れ招かれる。滅びた筈の草花が咲き、果実が実る、動物たちも召使のように振る舞う。『なんて安らかな世界、穢れが一切ない世界』ナウシカはその時、テトの死を忘れかけている自分に恐れ慄く。その場所はナウシカを足止めさせる罠だった。死への悲しみや不安すら排除する穢れなき場所にナウシカは違和感を覚える。『世界を清浄と汚濁に分けてしまっては何も見えないのではないか…汚濁を排除した世界では人は生きることは出来ない』と悟る。シュワの地奥深く黒い巨大な墓があるときく、歴代の王朝はそのまわりに王都をつくってきた。影の色濃き土地に何があるのか ナウシカは墓所に辿り着く。そこは、かつての人類が汚濁をなくそうと超高度な文明を残した場所、不老不死すら可能にする文明、ナウシカは墓所の主に問う。『生きることは変わることだ、王蟲も粘菌も草木も人間も変わっていくだろう、腐海も共に生きるだろう。だがお前は変われない 組みこまれた予定があるだけだ 死を否定しているから…』「お前は危険な闇だ 生命は光だ!!」
『ちがう いのちは 闇の中の またたく光だ!!』 そしてナウシカは墓所を破壊する。生命は風や音のようなもの…… 生まれ ひびきあい 消えていく 》



 

 

 

 

 

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