新春への思いを新たに


中西 衞

 

 新春を迎え心も新たに神社へお参りをした。行先は、南山城の国宇治田原町禅定寺の猿丸神社である。猿丸神社が建立されたのは、はっきりしないが古寺であることは間違いない。「おくやまに もみじふみわけなくしかの こえきくときぞ あきはかなしき」という歌は平安時代中期、高貴な歌人であった猿丸大夫(さるまるだゆう)が詠んだ歌であり、藤原定家が編んだ百人一首にもえらばれている。また、猿丸大夫の歌は藤原公任により作られた三十歌仙にも名のある有名歌人の一人でもある。

 一方、猿丸神社は町里離れた寂しい閑散な土地にあり、今にでも山から猿や狸がおりてきても決しておかしくない。近江と南山城をつなぐ奥まった峠道、交通不便なこの地に由緒ある高貴な歌人の社が、ひっそりと鎮座しているのが不思議でさえある。

 哲学者梅原猛氏は猿丸大夫と柿本人麻呂とは同一人物として、猿丸大夫は実在しなかったという説もあり、不明の点も多々あるらしい。わたくし事でたいへん恥ずかしいが、何年か前、お正月の餅の下に飾る裏白(ウラジロ科の常緑シダ)を取りにしばしばこの社の参道の奥へとむかったことがあった。

 振り返って現在、当時、奈良、平安朝時代の激しい時流を生きた歌人や貴人の人々たちを偲んで、どう思いをいたしていけばいいのか、考えさせられるものがある。

 

inserted by FC2 system