キューリのキューちゃん


   永井ますみ

 

    

 10月中ごろに、近くの業務スーパーでキューリを売っていた。3本198円の普通のもあったが、私が悩んだのは580円とある大袋だ。売場の人に訊いたら24本入っているとか。

「こんな立派なの24本かぁ。なんぼなんでもねぇ」

「ご近所さんと分けはったら。今店に出したばかりだからきれえよ」

 なるほど、業務スーパーは管理は悪いけど、近所で大量買い付けをすると言われるだけあって、つやつやと瑞々しい。しかし、老夫婦二人暮らしでこんなに食べられるだろうかと思案しながら、手を伸ばす。レジで男の人が

「ひと山買って戴かなければ。2本だけでは売れないんです」と云われている。

 一本何円になるか換算して、その人と分けたかったけど、計算機能のあるケータイは持って来ていないし、脳みそは固化してしまって

「580円に消費税を掛けて24本だったら一本いくらになる?」と問題を出すばかりで、答えが出て来ない。結局買わないで出る男の人を見送った。

 帰ってから一番作りたかったポテトサラダに2本。胡瓜のシャリシャリ感とポテトとマヨネーズの絡みが何とも云えない。それから胡瓜の糠漬けに2本。まだ20本あるのだが、キューちゃんを作る事にする。

 キューリに薄塩を振って、器に生姜・砂糖・醤油を煮立たせる。それに胡瓜を絞っていれる。ネットに書いてあった方法だ。煮るのではない。醤油漬けにするのではない。醒めたら引き揚げて、又その醤油汁を煮る。それに引き揚げていたキューリを又漬ける。

 こんな風に騙し騙し仕上げるのがキューちゃんなのだ。河童を騙してるみたいやなと思う。24本もあった嵩高いキューリが、いつか冷蔵庫に収まってしまっている。

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