古墳の街から


山田兼士

 

    

 8年前から11階建て集合住宅の1階部分に住んでいる。高台にあるので、玄関先からの眺めはなかなかのもの。まず目に入るのは信貴山、その前方に白鳥陵。3階あたりまで登って廊下を30度ほど曲がれば、二上山、応神陵(伝、以下同)、仁賢陵、清寧陵、安閑陵、仲哀陵など、古市古墳群が一望できる。地上に丘陵がいくつも浮かぶ様は、まるで多島海のようだ。休日には、遊歩道が整備された白鳥陵の濠端を散歩するのが習慣になっている。

 最近、百舌鳥古市古墳群が世界遺産に登録されたことで、隣の堺市ではそれなりに盛り上がっているようだが、こちら羽曳野市周辺ではそれほどでもない。その理由を推測するなら、まず、観光客を誘致するにしても、何を「売り」にすれば良いのか分からない。上空から眺めれば前方後円墳の全体像がつかめるのだが、地上からではその形態を把握するのは困難だ。例外的な「おすすめ」を記すなら、白鳥陵と仲哀陵の父子コンビ。どちらも、適度な大きさで、しかも周辺の濠が広いので、水平方向からでも前方後円の形がおよそ把握できる。応神陵などは巨大すぎて、どこから見ても小山にしか見えない。(ちなみに、日本一の面積を誇る百舌鳥古墳群の仁徳陵に対して、こちらは体積日本一である。)できることなら、上空、とはいわないまでも(御陵の上空はドローンも含めて飛行禁止になっているとのこと)、ほどほどの高さの展望台があればいいのだが、古市周辺に適当な建物はない。新たに造ろうとしても、世界遺産の規定(景観を変えないこと)があるために、それもできない。

 世界遺産の盛り上がりに欠けるもう一つの要因は、百舌鳥と古市を結ぶ交通路線がないこと。かつては近鉄または南海が鉄道を敷設する計画もあったようだが、結局実現しなかった。せめて路線バスでもあれば良いのだが、今のところその予定があるかどうかもわからない。観光客を運ぶには貸し切りバスぐらいしか方法がないのが現状だ。

 そこで、地元住人として、ひとつの解決案を提出したい。白鳥陵周辺(たとえば濠の上)と百舌鳥古墳群の適当な位置(たとえば沿岸地域)との間に、ロープウェイを建設してはどうか。かなりの距離はあるが、途中で中継点を何箇所か設ければ、不可能ではない。陵墓の真上を避けながら、それでも俯瞰的に展望できるように敷設すれば良い。できれば、ゴンドラの形状を白鳥にして、床面をガラス張りにする。そうすれば、白鳥の視線で古墳群を見下ろすことができる。そう、ヤマトタケルが羽曳野から西の空に向かって飛翔していった、そのルートを、追体験できるのだ。ちなみに、キャッチコピーは、「これであなたもタケル気分」。機会があれば関係者に提案したいと思うのだが。無理でしょうね、たぶん。

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