関西詩人協会 2012
構成詩と朗読    テーマ 動物・生き物・人間


その1

無人駅に降りた 晩秋の畦道を歩き
小川の橋を渡った 家並に入ったが
人に逢わず 冷えてきたので引き返した
草紅葉が農道のわきにずっと向こうまでー
私は野の舞台を 仏のみ名を唱えつつ歩いた
                
                   名古きよえ



清水を汲んだ谷の径
薪を負うた丘の径
山田へ登った牛の径
学校へ通った平らな道
灌木の茂る径という道  

                玉置 幸孝(代読 大倉 元)



一九九六年 リュクサンブール公園で
娘と微笑みながら見ていた十数羽の雀たち
日本の雀より一回り大きくてシックだった
もう娘は死んでしまったけれど
忘れない マロニエの香り 親子のすずめ
              
                福田 ケイ 

 

龍に乗り
嵐の護美は
楽園へ
ドドド肘打ち
宇宙(ピアノ)弾けて

                 中尾 彰秀 



小さな足が私を踏んでいく
鍵盤を押さえる指のように確かめながら
肩から足の方へと ぐるぐる
おこされちゃったよ しょうがないね 子猫
どんな曲を弾いていたの?
                 
              市原 礼子(代読 近藤 摩耶)



十月は動く
マントルからのチャックが
月の叫びに呼応して
フイを突きつけ
あきらめを明日の印にのぞかせる
          
              上村多惠子(代読 藤谷恵一郎)



民家の前に降り立つカラスめがけて
鮮やかなツバメ返しだ 何度も何度も
ついにカラスは飛び去った
その家をそーと覗くとガレージに巣
口を開けたヒナが四匹 

                西 きくこ



ひととき
石蹴りに 夢中の 子供の声が
わたしの重さを 忘れさせるほどに
時を 軽く
跳梁する

                香山 雅代





構成詩と朗読  その2


我が家に住みついた 二匹のくも
ピョンピョン飛んで歩く 小粒のくも
うす茶色の 大きな足長くも
楽しんでいたのに 居なくなった
くもの寿命 一年と言う事を知った
            
                 おれんじゆう



この世に生まれいでてから
命の時は刻まれている
私という名の時よ!
なんと残酷にも!
日々積み重ねられていることか

                 合田 照子
            


この地球に生まれて
だいそれたことも何一つできずに
猿と人間様
男と女
見境も分明(わか)らずじまい      
 
                 前田 捷美 (代読 神田さよ)



暗い部屋がだんだん
明るくなると朝御飯
空気がはりつめる頃昼御飯
疲れてさびしくなると夕御飯
今日一日を夢の中につれていくと明日になる
                
                 園田恵美子



地面から突然とび上がった茶色い蛙
白壁に移った足の白い蛙
白壁をよじ登っている真白い蛙
水色のポールに止まっている水色の蛙
雨の紫陽花の葉に居る緑の瑞々しい元の雨蛙

                秋野 光子



隣のおじいさん
詩を創ってるんだって
夕どき妻が話しかけた
聴いていた老人は頷くと
(わし)は米を作っていると呟いた

                佐藤 勝太


希望という
未来のことの葉残す
杉山の森
奥の細道照らす
夜半の月

                森 ちふく(代読 かりたれいこ)



みんな
そろって
きょうも
げんきな
にんげんで

              モリグチタカミ(代読 横田英子)




構成詩と朗読  その3



スペイン広場の恋人達に
物売りが夜空に投げ放つ光のオブジェ
これが最後の恋だと言い聞かせ
後ろめたさに肩を寄せ合う
旅の名残の別離(わかれ)の予感

                田村 照視



ポツポツと見えていた獲物の予感
山を背に覆い被そうとする
夕闇の黒いマント
小さな水たまりに空を映し
布の破れに明かりを探す

                武西 良和



三・一一の大震災のときに
海辺をうろついていた牛たち
今どうしているのだろう
動植物の「いのち」をもらって
のうのうと生きている人間への罰だ

              井上 哲士(代読 藤谷恵一郎)



動くのを動物と言う
人間は動くから動物の
一種だ
他の動物と同じように動き
眠り、食う、詩を書く

                中野 忠和(代読 河井 洋)



雲雀(ひばり)が空の中で縊死(いし)している
雲雀が吐いた血の棘(とげ)
はるかな曇天の城を攻め
海辺の原発がまたひとつ発狂する
それは神の手で水母(くらげ)の胎に記録される・・

                苗村 和正



生れたばかりの赤ん坊の ちいさなあくび
ベビーカーの幼な児は 柔らかな二本の足
ちょこちょこ歩き 転びそうな可愛い肉体
いつのまに少年少女となって 両親との会話
成長という生命の不思議が 眩しいしぐさで

                原 圭治



わたしの中で流れる
静かな情熱の
木は
手指を力いっぱい広げ伸ばし
美しい空をつかみとろうとしている 

                 古 祐二 


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