関西詩人協会イベント・2012
講演と構成詩・朗読の午後
                                2012年10月6日(土)午後1時30分〜4時30分
                                    ドーンセンター1階パフォーマンススペース
                                                 レポート:永井ますみ
講演「動物行動学から人間を考える」
                  講師 東京大学総合研究博物館特任助教 松原始氏
 「動物行動学が専門ですが、考えてみるとカラスばかりを研究してカラスの話しかできない。」という前置きの後、
カラスという名称について
 要するにカアカアと鳴いているカラスなのですが、実はカラスという種名の鳥はいません。
カラスはスズメ目カラス科カラス属の総称で、日本には七種類いますが、ハシブトカラスとハシボソカラスの二種類が主に見られます。
 ハシブトガラスの分布はアフガニスタンから東南アジアを経てサハリンが北限です。
  体重は600〜800で成人男性の100分の1くらいの重さ。日本には山林にもいるけれど、街中に多いゴミにたかっているところを良く見る。開けた処が嫌いです。日本の東京23区の都会暮らしのカラスは大方ハシブトガラスです。
 ハシボソガラスは牧草地、畑、水田、公園など開けた処が好きです。地面をつつける処が好き。
体重は400〜500グラム成人女性の100分の1くらい。
河川敷で石を捲ってエサを探している写真です。ハシボソガラスはごみあさりより、こういう事をしている。
大阪の公園あたりには両方がすんでいる。
カラスの縄張りとペアについて
 カラスの生活は繁殖個体と非繁殖個体で違います。繁殖個体というのは「結婚して家がある」感じですが、ペアで一定の縄張りを守る。雛が生まれ、その子は数ヶ月は親と同じ縄張りで過ごす。独立すると、ぷいと出ていって非繁殖集団で過ごす。親はそのまま翌年も同じペアで卵を産むのを繰り返す。
 非繁殖集団は若い奴だけでなく。何らかの理由で縄張りを持たない固体も含まれると考えられます。これらは巣や縄張りを持たないし、その日暮らしでブラブラしている。
 カラスは群れの中で暮らしていてペアを形成してしまいますが、最初は縄張りがなく、ペアになっているけども家が狭くて子どもができないというまるで神田川のような場合もある。(笑)ちなみに、ペア形成は一番強いオスと強いメスがひっつくんだろうと言われています。大体鳥の世界はオスが派手で、オスから求愛するのですが、カラスにはメスの方からオスに言い寄っている映像があります。面白いですね。オスがなんか胸をそらしている処に、メスが羽つくろいをしてあげています。もう1羽のメスが来てもて男をめぐる女の戦いがあったりします。社会的な大人になるには3年くらい、寿命は飼育下のハシボソガラスで約40年です。
 あちこちに縄張りがあり、巣があるけれど、非繁殖集団に縄張りがないという事は、守るものがないということで、好きな処でブラブラしています。今日は渋谷であすは池袋みたいな事があります。ペアを作ったら縄張りを作らないといけないのだが、うまく隙間をとると縄張りを形成する事ができる。そして巣をつくり子どもができるという繰り返えしです。オスが何らかの理由死んでしまったりでメスが1羽になると縄張りが守りきれなくて取られます。

カラスの夫婦

オスがくわえているのをメスが横から「チョウダイ チョウダイ」とぶんどりに掛かっている。ぶんどられたオスが「ああぁ」と見ているが、あまり美味くなかったようで、メスがポイッと棄てました。棄てられた瞬間、オスが「あっ」と見てました。(笑)カラスは非常に仲が良いです。相手の羽づくろいをしてあげるという習慣があります。オスとメスが交互にし合って、べったり寄り添って仲良くしています。飼育していると、同性のオス同士の羽づくろいもみられたそうです。トップのオスから劣位のオスへ「まあ一杯やれ」と盃をやるようなもので、やられている方は全く気持ちよさそうでなかったりする。(全く人間と一緒だ)

繁殖について
産卵は2月末〜4月。巣作りはその前に1週間から10日掛かって作る。
抱卵は20日くらい(メス)

ハシボソガラスの巣
オスはその間、エサを採ってメスに運ぶ。(ハシブトガラスは巣が分からないようにする。ハシボソは大胆)見張りをする、子が生まれたら子のエサも運ぶで、忙しい。抱卵中のメスはやはり(餌が不十分で)空腹なように見える。オスが何か見つけたなと思ったら、メスが卵をほっておいて、いそいで獲りに行く。(ワアー)
 メスが「くれくれ」というので、仕方なくやのですが、全部やるのは勿体ないのか、半分は銜えていった。(笑)

巣立ちについて
 雛は裸なのでメスが抱いています。雛の巣立ちまでは32日ぐらいかかります。巣立ちが見られるのは5月の連休ごろからです。巣立ちといっても、カラスの場合は感動的でもなくて、「よっこいしょ」と一歩だけ巣から出て、枝の上でゆらゆらして、「ん〜ん、やっぱり怖いや」と戻ってくる。(笑)その内だんだん出ている時間が長くなり、帰って来なくなる(巣立ちの完了)。雛は2〜3ヶ月は親と一緒にいる。折角出ていったと思ったのに、1ヶ月もしたら舞いもどってくるヤツもいる。親は他の個体が縄張りに入ったら必死になって追い払おうとするけれど、自分の子だったら手加減するように見える。
 カラスが人間を襲ったという話をよく聞きますが、それはよく雛が落ちるからです。カラスは高いところに巣を作っていますが、林の中ならば落ちても途中の枝にしがみついて止まることができる。ところが、街路樹などの枝が少ない木に作った場合は一気に落ちてくる。それを人間から守ろうとしているのです。そんな時にも、親カラスはいきなり襲うことはまありません。まず威嚇して「カアカアカア」(流石上手です)と勢いよく鳴いて、縄張りにはいるものに威嚇します。それでも出て行かなかったら、更に下の枝におりて枝などを叩いたり落としたりします。人間が机をバンバン叩くようなものです。「早よ出ていけや!」。ドスの効いた声で「ガアアア」と鳴く。更に出ていかなかったら、カラスは人間の頭を掠めて飛びます。これでも出ていかなかったら、頭を後から蹴ります。防護の為には、雑誌一枚で良いですから後頭部に当ててカバーをしてください。
 彼らは何故そんな攻撃するかというと、「可愛い七つの子がいるからよ」というわけですが、子どもの保護です。彼らは子どものため以外に命は掛けません。相手は自分の100倍も体重のある人間ですから。
巣について
 剪定された枝を銜えています。これは贅沢ですね桜の枝です。こんなのもあります、ガムテープです。これで補強したら凄いですね。流石に使い方が分からない、一生懸命考えてましたがついに分からなくて、持って行っちゃいました。巣は直径60センチくらいあります。(へぇー)見えにくい処に作っています。枝に類するものなら何でもいいらしくて、ハンガーなんかもよく使っています。(驚きの声)僕のアパートもやられました。ガチャンと音がするので、隙間から覗いたら持って行ってました。
 ここに尻尾が見えています。こういった感じで見上げたらああいるなというように見えます。ハシブトガラスは普通に見てもなかなか見えない処に巣をつくります。分かっていたので写真は撮れましたが。ハシボソガラスは落葉樹にも巣を作ります。高緯度地域や乾燥地にも住むので贅沢はいわないのでしょう。
割れた卵の写真
 割れちゃった写真で申し訳ないですが、巣の下に落ちてました。鶏より少し小さくブルーグレーです。羽根が見えますが卵の中で雛が育ちかけていたのでしょう。(かわいそうー)
鍵刺激とは

カラスの子
カラスのガキって目の色が青いんです。カラスは卵が全部巣立つことは少ないです。ふつう動物は子どもの方が可愛いんですけど、カラスは子どもの方が目つきが悪い、俗にいう三白眼です。(笑)鳴き声が甘えて鼻に掛かったガァー(鼻濁音)。半人前以下ですから枝に捕まってボケーとしてます。

 また、これ兄弟なんですけど、羽根が風でひらひらするのが気になってしょうがない。羽根を嘴で引っ張っている。また、もう一つの子は電線をかじってます。
 雛の口のへりの赤いのがチラチラ見えています。実はこれが子どもの印です。ひと月たってもまだ赤いんです。赤い口を見るとエサをやっちゃうというのがカラスの親の習性なんです。よその子にエサをやろうとしたところを観察した事があります。
 「嘴の黄色いヒナ」と良くいいますが、鳥の口の中はものすごく派手で、この大きな口が目の前で開いてユラユラしていると、親としてはエサを遣りたくて仕方なくなる・・・・・これを「鍵刺激」といいます。
 人間の場合でもあります。ミッキーマウスでも出始めた頃より、頭を大きく、体を小さく、顔の部品を寄せていっています。人間は子どもっぽい姿を見ると本能的に可愛いと思ってしまいます。猿の時代から受け継いだ反応です。
カラスの食事
 カラスは雑食性です。果実も昆虫も小動物も食べます。栄養段階のどの位置にもいます。死体や他の動物の食べ残しも狙いますが、これは肉の塊というわけです。自然界の掃除屋とも言われています。山の中でもそうですが、街の中でも同じように行動します。果実や昆虫は減るけれど、ゴミ、すなわち掃除すべき食べ残しがたくさんあります。彼らにとっては全く同じです。「カラスはゴミを散らかして困る」と人間は言う。確かに困るのですがカラスにいわせれば 「あんまりゴミが多いので仲間を増やしてまで掃除しているのに何が悪い!」(笑)

人間とカラスは随分昔からつきあいがあります。
上賀茂神社のカラス相撲神事。
太陽からカラスがくる。
太陽の黒点はカラスである。
太陽には三本足のカラスがいる。
神武天皇を導いた八咫烏。
世界は大きな貝に閉じこめられていたが、カラスが貝を開けてあちこちにばらまいた。
世界が余りに便利なので、カラスを遣わして不便な世界にした。
カラスには貯食の習性がある。マヨネーズを隠している写真。彼はマヨラーです(笑い)
ばらまいている写真
いつでも、人間をジーと見ている感じ(大笑い)
オオカミの足跡を追いかけるといわれている。
ワタリガラスの滑空の写真。羽ばたかないです。
ハシブトガラスが鹿の死骸をみつけて寄っていました。
動画(ハシブトガラスの中に一声ワタリガラスの声)
オオカミの行動を見ていると同様にハンターである人間のことを良く見ている。
北欧神話の最高神オーディンの肩には二羽のカラスがいて知恵と情報を持って両耳からその日の世界であった事を知らせる。(ふうーん)
八咫烏は道案内を終えた後、先触れとしてはたらきています。
アイヌの伝説ではヒグマを撃ちに行くとカラスが教えてくれる。アイヌはお礼にヒグマの肉をお礼としておいてくる(ふうーん)
そういう「神秘的な神の使い」という視点は狩猟採集民の中では一般的です。
旧約聖書でもカラスは出てきます。カラスは仕事をさぼって洪水で死んだ動物を漁っていて帰ってこなかったという。しかたがないので鳩を使いにやったらオリーブの葉を持って帰ってきた。
北欧ではワタリガラスの記念切手があったりする。
陸地が見えなくなったらカラスを放すとカラスは陸の方へ飛んでいくので。それを追いかけて船を進めたといいます。

ワタリガラスの滑空

終わりに
 神話において、カラスは情報担当であり、道案内であります。ということで、ざっと纏めますと、カラスというのは人間にとっては創造神であり、神の使いであり太陽の使いでありました。狩猟採集文化が無くなると、野晒しの死体に集まってくる死の使いという印象が強くなっていますね。同時に人里にいて、和歌に詠まれています。清少納言の枕の草子など、カラスが人を見ていると同時に、人もカラスを見ているということでもありました。現在はゴミを漁るなどあまり良い印象がないですけど、恐らく都市にいる最大の野鳥です。一番身近にいて一番気になっている鳥といえるでしょう。
今日も元気でゴミを漁ります。(写真)




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