関西詩人協会主催 第3回(納涼)詩話会  青木はるみの詩を読む

2011年8月28日午後1時30分〜4時30分
於:エルおおさか
レポート:永井ますみ
最初に青木はるみさんから、詩についてのお話があった。
  • 病に倒れるまでは、住居地である奈良の各方面からの依頼で色々あり多忙でした。女性グループでの講演。高校の先生方からの詩の読み方、理解についての講演。ワースト1であった大和川についての会議。その川についての詩と写真のコラボ等々。
  • 毎日放送の「真珠の小箱」というテレビ番組にレギュラーで出て、毎回奈良の良さをアピールするような詩を朗読していたので、映像と詩のコラボを経験した。いかにその時間内で言いたいことを言い切ってしまうかが、大切だと思った。
  • 産経新聞で毎月初めに、写真とのコラボを発表中。見ただけで詩情が湧いて、すぐに書きたくなるのが佳い写真だと思った。
  • 画家の絵とパネルにした詩を並べるというコラボレーションの仕事を随分やってきた。
  • 小野十三郎先生の勤め先が帝塚山学園だった関係で、よくお話をする機会を得た。自分との会話がそのまま小野先生の詩になったりした。ひとの話を聴いてまるで自分が見てきたように書かくという、リアリズムを覚えた。自分が見なくても、経験しなくてもいかにも見て来たように書くリアリズム。リアリズムというのは一から十まで体験して書くものだと思っていませんか?それは違います。
  • エッセイもよく書いてきました。新聞記者に「詩人の書くような文章を書いてもらっては困りますって。平に、一般のみんなに分かる文章を書いてください」と言われた。それは、五W(Wen Where Who What Why)1H(How)を揃えることだ。今、現代詩が分からないと言われる理由に、あまりにもこの条件が揃っていない事にあるのではないか。小野先生も「状況」という事を厳しく話しておられた。
  • 書けない時はどうしますかという問いに「そりゃね、無理をするんだよ」と言われたことが胸に響きました
  • テレビで観た「犬の消えた日」という映画を観た。テレビの世界からもずいぶん色々な事がわかります。ごく最近に授賞した「風・最優秀賞」の詩もテレビから取材した詩です。毎日新聞で毎週金曜日に「テレビ時評」を書いていたことがあるが、その時は仕事やもん!と思って朝から晩までテレビを観てました。
  • 歌人で最近亡くなられた河野裕子さんの短歌が好きでした。
    言葉はすぐに消えゆくものを 柔らかな鉛筆持ちて娘は筆記しくるる  河野裕子 
    私も病床にあったとき、息子に「頭で考えているなら、上を向いて寝たままで、サインペンでも書ける」と勇気づけられたことがあります。



以下の人達が、青木はるみさんの詩を朗読され、青木さんの解説、解題があった。
はじまりは純白 朗読:猪谷美知子さん 青木さんによる解説
産経新聞の毎月の写真とのコラボで、お正月に書いた詩で気に入っている詩だった。
おみくじを買ったって、人間の運勢って決まっているのに、どうしておみくじなんか求めようとするのかなという、人間のかなしい習性について書いてみました。
左のがその時掲示された写真です
知っていても知らなくても 朗読:出田恭子さん
赤旗新聞の依頼で書いた詩。

知っていてもしらなくても、どうでも良いと思いがちの世の中で、やっぱり知っておきたい。オードリーヘップバーンのエライところは歳を取って病気もして痩せてしまったけど、閉じこもるのではなくどんどん人前に出て、ユニセフ親善大使などをやったことですよね。子供を抱っこしている写真など皆が新聞などで見て知っているんです。
皆が知っていることを、私はどう書くかというのが難しかった。
星の事と人間の恋愛詩の事と、ヘップバーンの事を重奏させていう手法を使っています。
ユトリロのパレット 朗読:嵯峨京子さん
朝日新聞に発表した詩

まず、パリにはユトリロの描いたものとそっくりな風景が残されていることに驚きと嬉しさを感じました。その時、展示してあるユトリロのパレットを見たのだけど、絵の具を置くためのパレットに絵を描いてしまっているのですね。指を入れるところに大きな樹の洞がありました。地域によって違うけれど、マンホールにはその土地の絵が彫ってあります。奈良は桜と鹿です。鉄製の桜を現出させていますが、これも主題を重奏させています。
ノドの乾き 朗読:藤谷恵一郎さん
思潮社による造形展に出品した時に書いた詩。

水を展示したいと思って、紹介も経ずに赤肌焼きの窯元に行った。そこに飼っていたデビルドッグという犬と仲良しになったお陰で気に入られて、水盤をひとつ作らせて貰った。大事に抱えて新幹線に乗り、東京の画廊へ展示しに行った。たっぷり水の入った水盤の上に横たえられた乾燥した大きなひまわり。「絶えることのないノドの乾き」がなければ、どうして詩など書くのだろう。しかし、今になるとその若気の気負いが見えるようで気恥ずかしい気もするのだが。終行は多少の希望を書いている。
朗読:力津燿子さん
高校2年生の教科書に載りました。その後、川崎洋さんが『教科書の詩を読み返す』という本を作られたけれど、それにも載っています。

初めてこういう活写によるキッチンポエットが教科書に載ることで、若い人達に(自然で現実的な)詩を書かせる力になったと思う。しかし私は色々なタイプの詩を書いていますし、「詩は分かりやすくなきゃいけない」とは全然思っていないですよ。ひとにおもねって分かりやすい詩を書く必要はないですね。
ひかる腑 朗読:小野田潮さん
これはまだ詩集に収録していない。

水に浮いたカバの腸を(テレビで観て)書いていますが、自分の大腸の病気が発覚する随分前に書いたものです。人間は自分の運命を先取りすることがあって、怖いなぁと思った。
小野田潮氏の「女の愛の情念を書いているのではないか」という感想があった。腸が浮いている情景ですら、フラ・アンジェリコの絵のような高貴な光景だった。ライオンに食べさせてなるものかと頑張っている、雌のカバの愛の美を書きたかった。つまり、愛への渇望。終連は少し軽くしたけどどうですかね。
質問と意見交換が少しあった後に
会場から司茜さんによる青木はるみさんの詩「再会」の朗読と、ご自身の朗読による「泣くなよ」の朗読があった。

休憩を挟んで青木さんから出されたテーマ「棘・トゲ」を出席者が20分ばかりで即興詩創作、発表する時間を持った。

即興詩参加者の名前
青木はるみ 合田照子 井上良子 猪谷美知子 出田恭子 岩井洋 大園千代子 奥村和子 小野田潮 かりたれいこ 河井洋 神田さよ 北村真 岸本嘉名男 嵯峨京子 左子真由美 園田恵美子 佐古祐二 佐藤勝太 田村照視 司茜 外村文象 ときめき屋正平 早川玲子 伴隆志 名古きよえ 永井ますみ 船曳秀隆  原圭治 左美知子 南久子 山下俊子 やまもとれいこ 横田英子 力津耀子
トゲという題で書かれた詩のキィワード
トゲのある植物:ワレモコウ、茄子、薔薇、八朔、稲葉先、茨、藁のトゲ、カラタチ、イバラのミドリ、サボテン、猫の舌(これは動物だが)、
抽象のトゲ:葉一面にビッシリのトゲ、無数の棘、トゲの無い人生、針のむしろ、ノドにトゲ、人生のトゲ、宇宙トゲ、夏の思いが刺さっている、
具象のトゲ: 忘れたい時間が砂に沈んだ足にトゲとなって抜けない、痛みを癒す、痛みを抱いていく、綺麗な花にはトゲがある/私はトゲのある女になりたい、長い間のに埋め込まれたトゲ。トゲの痛み トゲの抜けきらない、懐かしい痛み、トゲになって貴方と生きていたのね、トゲの言葉が/墓碑銘のように、あなたのトゲ、心トゲ立つ日、
珍しいところでは、3月11日の痛みが瓦礫の中にトゲのようにたっている、ネトゲ(ネットゲーム)、。

重複するキィワードもありましたが、なかなか面白い即興詩の時間でした。「トゲ」という題の設定も、詩に拡がりを持たせるのに力あったと思います。
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